右サイドに加わった左足
2026年7月、アトレティコ・デ・マドリードはパリ・サンジェルマンからイ・ガンインを獲得した。契約は2031年6月まで。背番号は7に決まった。
クラブは、攻撃的MFと左右のサイドでプレーできる左利きの選手として紹介している。両クラブの公式発表では、PSGでの3年間に公式戦124試合へ出場し、16得点16アシスト。直近の2025-26シーズンは39試合で4得点5アシストを記録した。
個人的には、加入発表を見て少しだけ別の期待もしていた。
私は日本人だが、プライベートでのニックネームは「リー」と呼ばれている。そのため、イ・ガンインが7番を着けると知ったときは、自分のニックネームが入った「LEE 7」のユニフォームが公式から発売されるのではないかと、少し浮かれていた。
実際に公式ストアで選べる表記は「KANG IN 7」。新加入はもちろん嬉しいのだが、自分のニックネーム入りの公式ユニフォームが出るという小さな夢だけは外れてしまった。
ユニフォームの表記と背番号はすでに決まった。一方、ピッチ上での居場所はこれから決めなければならない。
右MFは有力な出発点になる。タッチライン際で幅を取り続けさせるより、内側へ入って左足で前を向かせる方が、これまでの起用歴には合っている。ゴール方向を向いたときに、パス、クロス、シュートのすべてを選べる選手だ。
ボールを任されたマジョルカで存在感を増した
イ・ガンインの特徴が最も分かりやすく表れたのは、マジョルカでの2年目だった。
2022-23シーズンは全公式戦39試合に出場し、6得点6アシスト。開幕11節終了時点では、チーム内でアシスト、ドリブル成功、ファイナルサードでのパス数のいずれもトップに立っていた。ハビエル・アギーレから自由度の高い仕事を任され、ヴェダト・ムリキとの関係を軸に攻撃へ関わった。
マジョルカは、ボールを長く保持して相手を押し込み続けるチームではなかった。限られた攻撃機会の中で、イ・ガンインは自ら前へ運び、相手を引きつけ、ムリキや周囲の選手へ届ける仕事を担った。
ドリブルで一人を外せるだけではない。ボールを持ちながら味方が動く時間を作り、相手の守備位置が変わったところでパスを選べる。左足のキックが注目されやすい選手だが、その前段階で相手を動かせることが、ラストパスの質につながっている。
マジョルカで影響力を増した過程を見ると、短時間のジョーカーとして使うより、一定量のボールを預けた方が持ち味を引き出しやすいように見える。
アトレティコでも同じ条件が必要になるのではないか。右、左、中央の欠員を埋める選手として使うより、基準となる位置を決め、そこから周囲との関係を作った方が良さは出やすい。
PSGで増えた選択肢と、主力になり切れなかった理由
PSGでは多くの出場機会を得たが、毎週外せない主力という立場にはならなかった。それでも、左右と中央を行き来し、高い技術を持つ選手たちの中でプレーした3年間は、アトレティコでも使える経験になっている。
イ・ガンインは中盤、左右のサイド、前線の内側と、異なる位置から試合に入った。細かいパス交換に加わり、少ないタッチで次のプレーを選ぶことも求められた。PSGでは国内タイトルに加え、2度のチャンピオンズリーグ優勝も経験している。
2025-26シーズン開幕のナント戦では、ヴィティーニャとファビアン・ルイスとともに中盤で先発した。前半にはゴンサロ・ラモスへ2本のクロスを送り、ペナルティーエリア中央から自らもシュートを狙っている。相手を押し込んだ状況で、パスの出し手にもフィニッシュ役にもなれる場面だった。
この試合では後半の早い時間に交代し、PSGが決勝点を挙げたのはその後だった。良い場面を作ったことと、攻撃の中心として試合を決めたことは分けて考えたい。
同年のバルセロナ戦では途中出場から複数の相手をかわし、左足のシュートをポストへ当てた。短い時間でも個人技でゴールへ近づけることを示した場面ではあるが、これも試合全体の評価ではなく、一つの好プレーとして見るべきだろう。
PSGでは、こうした印象的な場面を作りながら、一つの位置を自分のものにするところまでは行かなかった。
多くの場所でプレーできることは出場機会につながる。しかし、空いている場所を埋める選手と、攻撃の基準になる選手は同じではない。
アトレティコが気をつけたいのは、この違いである。
右MFが足りなければ右へ置き、中央に欠員が出れば中へ移し、試合終盤には左へ回す。そうした使い方は短期的には便利でも、どこでボールを受け、誰と連係し、何を選ぶ選手なのかが曖昧になりやすい。
PSGで得た対応力は生かしたい。多才であること自体を、役割の代わりにはしたくない。
第一候補は右、中央でも使えれば幅が広がる
現在のアトレティコで、右MFの最もはっきりした基準になるのはジュリアーノ・シメオネだ。
ジュリアーノはタッチライン際の幅、相手の背後へ出る走力、ボールを失った後の切り替えでチームを前へ進める。右サイドに勢いを与えられる一方、低い守備ブロックの前で何度もボールを受け、細かいパスや左足のシュートで崩すことを主な仕事とする選手ではない。
イ・ガンインは、同じ場所へ別の能力を持ち込める。
右サイドバックが外側を上がれば、イ・ガンインは内側へ移動できる。そこで前を向けば、中央へのパス、逆サイドへの展開、ソルロートへのクロス、自らのシュートを選べる。相手の左サイドバックが内側までついてくれば外が空き、中央の中盤が対応すれば前線への経路が生まれる。
右に置くだけで自動的に機能するわけではない。低い位置までボールを受けに下がり続ければ、ゴールから遠ざかる。サイドバックが外側へ出ないままイ・ガンインも中央へ入れば、右の幅がなくなる。
必要なのは自由に動かすことより、どこまで動いてよいかを周囲と共有することだろう。
中央で使えることも大きい。右MFを基本としながら、試合によってはトップ下や中盤の前方でボールを受けられれば、アトレティコは配置を変えやすくなる。右でうまくいかなかったときの避難先ではなく、攻撃の中心へ近づける別の選択肢として考えたい。
最初から複数の仕事を同時に求める必要はない。まず右から内側へ入る形を作り、そこで何を生み出せるかを見る。そのうえで中央へ広げる方が、本人にもチームにも分かりやすい。
押し込んだ後の最後の一手
昨季のアトレティコを見ていて歯がゆかったのは、相手を押し込んだ後だった。
速攻へ移れる場面では、フリアン・アルバレスの動き出しやジュリアーノの推進力を使える。問題は、相手が自陣へ戻り、中央とペナルティーエリア周辺を固めたときである。
ボールは持てても、守備の外側を回る時間が長くなる。誰かが相手を引きつけても、その次のパスが決定機につながらない。クロスを上げても、準備された守備に跳ね返される。
ここでイ・ガンインに期待したいのが、ラストパスと得点である。
相手の中盤と最終ラインの間で前を向き、フリアンやソルロートへボールを通す。右から内側へ運び、ペナルティーエリアの角付近から左足を振る。味方との短い連係で守備の位置をずらし、クロス以外の方法でエリア内へ入る。
一つひとつは特別に新しいプレーではない。それでも、アトレティコには、この局面で複数の選択肢を続けて出せる選手が必要だった。
得点については、期待と実績を分けて見たい。イ・ガンインはマジョルカでの2年目に6得点、直近のPSGでは4得点を記録したが、毎季二桁得点を計算できる選手ではない。
シュートを打てる技術はある。問われるのは、その位置まで何度入れるかだ。
パスを出した後に止まらず、エリア内へ入る。右から中央へ移動した後、さらにゴール前へ顔を出す。アトレティコで得点数を伸ばすなら、キックの精度以上に、こうした動きを継続できるかが鍵になる。
シメオネの要求に応えながら、長所を残せるか
守備面を不安視する理由は、イ・ガンインが左利きの攻撃的MFだからではない。アトレティコの右MFに求められる仕事が多いからだ。
相手サイドバックへの対応があり、味方の右サイドバックが前へ出た後のカバーもある。ボールを失った瞬間に戻り始めなければ、中央の中盤や最終ラインへ負担がかかる。
それでも、守備をしない技術系の選手と決めつけるのは早い。
2022-23シーズンの開幕11節終了時点では、敵陣でのボール回収と高強度走行距離の双方でチーム2位だった。少なくとも、守備への関与を避ける選手と片づける材料ではない。
問題は、アトレティコで求められる仕事を毎週続けられるかである。
一度強く寄せるだけでなく、相手がボールを動かすたびに立ち位置を調整する。低い位置まで戻った後、攻撃に移れば再び前へ出る。強度の高い試合でも、終盤まで同じ判断を繰り返す。
守備基準を満たせなければ、シメオネがより走力のある選手を選ぶのは不自然ではない。一方で、守備を意識するあまり、攻撃でも安全なパスばかり選ぶようになれば、獲得した意味が薄くなる。
イ・ガンインは、シメオネが求めるカルチャーへ適応しなければならない。その過程で、イ・ガンインらしさまで消してはいけない。
ここに、この補強の難しさがある。
今のアトレティコで役割をつかめるか
右MFの補強が必要だった今のチームにとって、イ・ガンインの獲得は良い補強だと思う。
ジュリアーノとは異なる方法で右サイドを使え、必要なら中央でもプレーできる。ラストパスと左足のシュートという、相手を押し込んだ後に欲しかった能力も持っている。
それでも、アトレティコで確実に機能するとまでは言えない。守備強度を保てるか。好調な数試合だけでなく、シーズンを通じて攻撃へ関われるか。シメオネが明確な役割を与えながら、本人の自由も残せるか。
右、左、中央で使える選手として終わるのか。右を出発点に、試合の流れを変えられる選手になるのか。両者は似ているようで、かなり違う。
ユニフォームの背中には「KANG IN 7」と入る。ピッチ上でその7番をどこに置くかは、まだ決まっていない。
右から内側へ入り、最後のパスと得点に関わる。その仕事を継続して任せられるなら、イ・ガンインはアトレティコが相手を押し込んだ後に抱えてきた問題への、一つの解答になり得る。
そこまで行けるかは、まだ半信半疑だ。だからこそ、アトレティコで実際にプレーする姿を見るのが待ちきれない。