アトレティコ
1 - 2
バルセロナ

11日間の第1幕

シュート6本。被シュート22本。ボール保持率33%。10人で戦った後半45分間の失点は1。数字だけ見れば完敗だが、この90分が映し出したものは単純な力関係ではなかった。

アトレティコ・マドリードはこのリーグ戦を、4日後のUEFAチャンピオンズリーグ準々決勝第1戦に向けた「捨て試合」にはしなかった。もっとも、フルメンバーを投入することもしなかった。ダビド・ハンツコフリアン・アルバレスアデモラ・ルックマンといったCLでの主軸は完全に温存された。ベンチ入りこそしたものの、90分間を通じて一度もピッチに立つことはなかった。プレビューで予測した通り、シメオネの選択はカンプ・ノウに照準を合わせたものだった。結果はアトレティコ 1-2 バルセロナ。敗戦の事実よりも、この試合がカンプ・ノウへ何を持ち込めるかのほうが重い。

先制点、そして3分間で失ったリード

前半のアトレティコには、ローテーション組であることを忘れさせる攻撃の鋭さがあった。アントワーヌ・グリーズマンは9分、ジェラール・マルティンを股抜きで外し、さらにアラウホもかわしてペナルティエリア内からシュートを放った。ジョアン・ガルシアの正面を突いたのが惜しまれるが、あれが決まっていれば試合の構図は変わっていた。27分にはアレックス・バエナの絶妙なクロスにフリーで合わせる場面も作ったが、右足のシュートは枠を逸れた。

先制点は39分。クレマン・ラングレがハーフウェイライン付近からバルセロナの高いDFラインの裏へロングボールを放り込む。バルセロナの前線にはラングレへ寄せる選手が誰もいなかった。ジュリアーノ・シメオネが広大なスペースに走り込み、ワントラップから右足でジョアン・ガルシアの右を破った。父の名を持つ23歳が、67,710人の前でゴールネットを揺らす。メトロポリターノがこの試合で最も沸いた瞬間だった。

リードはわずか3分で消えた。ラッシュフォードに対してル・ノルマンが飛び込んだが、かわされた。そこからダニ・オルモとのワンツーで背後を取られ、ラッシュフォードが低いシュートをムッソの股を抜いて流し込んだ。42分、1-1。ラッシュフォードのフィニッシュは冷静で、ル・ノルマンの飛び込みは裏目に出た。

ニコ・ゴンサレス、為すすべなく退場

ニコ・ゴンサレスにとって、この試合は開始直後から平穏ではなかった。本職がウインガーの選手がラミン・ヤマルの対面に配置された時点で、リスクは織り込み済みだったはずだ。もっとも、ここまでの壊れ方は誰も想像しなかっただろう。

序盤からヤマルに何度も外されていた。12分にはヤマルに股を通され、アウトサイドのスルーパスでフェルミン・ロペスの決定機を生み出された。対面するたびに後手を踏み、精神的な余裕は確実に削られていた。22分、ヤマルに頭上を越されるパスに対応しきれず、思わず手を伸ばしてボールを止めた。バスケットボールのようなハンド。明らかなイエローカード。頭上のボールに手が出ること自体が異常であり、それまでに受け続けた圧力が、あの一瞬に凝縮されていた。

45+2分、ヤマルがDFラインの裏に抜け出しかけたところを、ニコがペナルティエリアのすぐ外で身体をぶつけて倒した。主審は当初2枚目のイエローを提示したが、VARが介入。決定的な得点機会の阻止(DOGSO)と判断され、45+7分に直接レッドカードが提示された。結果としてどちらでも退場という事実は変わらないが、直接レッドの場合は出場停止の期間が長くなる可能性がある。

酷い試合だった。とはいえ、ポジティブに捉えるなら一つだけ言える。CLでこれが起きなくてよかった。

幻の10対10、取り戻した左サイド

後半開始直後、一瞬だけ状況が変わりかけた。46分、バルセロナのジェラール・マルティンがクリアの後にアルマダの足首を踏むプレーで直接レッドカードを受けた。10対10。メトロポリターノに安堵に近い歓声が広がった。

しかしVARが再び介入し、マルティンのレッドはイエローに格下げされた。ボールに先に触れた後のフォロースルーという判断だ。今の基準ならレッドカードでもおかしくないチャレンジに見えたが、審判団はそう取らなかった。ベンチも含めたアトレティコ関係者の怒りがピッチに満ちた。

その前半終了間際の混乱のなかで、印象的な場面があった。オルモがジュリアーノに激しく接触したことをきっかけに、両チームの選手が詰め寄る乱闘騒ぎが起きた。コケが激昂し、一触即発の空気になりかけたところで、ムッソがコケの胸に手を当てて押しとどめた。このアルゼンチン人GKは後半開始直後にも審判への異議でイエローカードを受けているが、あの瞬間にチームが感情に飲まれるのを防いだ判断は、スタッツには残らない種類の貢献だ。

ハーフタイムの交代でコケに代わり投入されたマッテオ・ルッジェーリは、ニコが退場した左サイドを落ち着かせた。ヤマルとの対面は今季4度目になる。12月のリーガ、2月のコパ第1戦、3月のコパ第2戦、そしてこの試合。コパ第1戦の4-0勝利では90分間ヤマルにシュート0本に抑えた実績を持つイタリア人DFにとって、相手の特徴は熟知している。ニコが苦しんだ同じサイドに入りながら、ルッジェーリは位置取りを崩さず、ヤマルの侵入経路を塞ぎ続けた。4度目だからこそ保てた平常心だったのかもしれない。CL準々決勝でもこの左サイドは彼が担うことになるだろう。

後半の守護者たち

後半のアトレティコはバルセロナの攻勢に晒され続けた。ポゼッション差は広がり、コーナーキックを9本浴びた。それでも1-1が長く続いたのは、ムッソのセービングが効いていたからだ。

65分、カンセロの高いクロスがファーで落ちたところにフェラン・トーレスが反応。至近距離からのシュートをムッソが身体を張って弾いた。68分には同じトーレスにペナルティエリア内で明確なチャンスが生まれたが、オルモのスルーパスを受けたフィニッシュにムッソが素早く反応してコーナーに逃れた。82分にもカンセロの折り返しからトーレスが押し込みにかかった場面を防ぎ切った。後半だけでフェラン・トーレスの決定機を3度止めた計算になる。FotMobのレーティング7.5はチーム最高値だった。1失点目のラッシュフォードの股抜きは悔やまれるが、あれがなければ後半のパフォーマンスだけで語られる試合だったかもしれない。

61分に投入されたホセ・マリア・ヒメネスは、最終ラインに闘志を注入した。64分、カンセロがエリア内でシュート態勢に入ったところに身体ごと飛び込んでブロック。80分には、味方のクリアが中途半端になりレヴァンドフスキに渡りかけたボールに飛び出してカットし、ゴールを決めたかのようなガッツポーズを見せた。結果的にはオフサイドの判定で試合は止まっていたが、あの振る舞いには長くウルグアイ代表のキャプテンマークを巻いてきた男の存在感があった。10人で耐え続ける味方にとって、あのガッツポーズが持つ意味は小さくない。

40分間の抵抗が砕けた瞬間

78分、フリックはラッシュフォードを下げてレヴァンドフスキとガビを投入した。10人のアトレティコにとって、エリア内でのターゲットマンの登場は新たな脅威だった。85分にルッジェーリがカウンターから左サイドを駆け上がり、ソルロートに浮き球を送った場面はこの後半で唯一と言えるアトレティコの攻撃機会だったが、ボールはソルロートのファーストタッチから離れた。

87分。カンセロが左サイドでアルマダを翻弄し、エリア内から強烈なシュートを放つ。ムッソが弾く。しかしリバウンドはレヴァンドフスキのもとへ飛んだ。肩でボールを押し込み、ゴールラインを越えた。1-2。ムッソに非があったとは言い難い。カンセロのシュートへの反応は十分だった。跳ね返りの先にレヴァンドフスキがいた、それだけのことだ。37歳のストライカーが最も得意とする仕事だった。

これ以上の反撃力はアトレティコに残っていなかった。10人で40分以上を守り抜きながら、最後に沈んだ。xG 0.92対2.22(FotMob)が示す通り、バルセロナはスコア以上のチャンスを作っていた。むしろ87分まで1-1を維持したことのほうが、数字上は健闘に映る。

若手たちの手応え

オベド・バルガスは中盤の中央で90分間を走り切った。派手なプレーはなかったが、穴にもならなかった。カルドーソジョレンテを同時に欠くなかで、リーガの試合を支える戦力として計算できることを改めて示した。足首の負傷で離脱中のメンドーサがシーズン最終盤に戻ってくれば、この2人がローテーションの選択肢として揃うことになる。終盤戦のスケジュールを回すうえで心強い。

68分に投入された18歳のタウフィク・セイドゥは、トップチーム初出場を果たした。バルセロナ相手に20分以上のプレータイムを得たこと自体が貴重な経験だ。終盤にペドリへのファウルでイエローを受けたのは余計だったが、序盤こそ慎重に映った動きが時間とともに積極性を帯びてきたのは好材料だった。61分に入ったハビ・モルシージョも同様に、アトレティコ・マドリレーニョ出身の若手として限られた時間ながら最高峰の舞台を経験した。守備に追われるなかでのデビューではあったが、この場に立ったこと自体に意味がある。

11日間はまだ始まったばかりだ

公式戦3連敗。トッテナム(CLラウンド16第2戦、アウェイ)、レアル・マドリード(リーガ第29節、アウェイ)、バルセロナ(リーガ第30節、ホーム)。数字だけ見れば下降線だが、トッテナム戦は第1戦の5-2を盾に合計7-5で突破している。レアル・マドリード戦は直後に代表ウィークが控えていたこともあり、手を抜いた試合ではなかった。そしてこのバルセロナ戦はCL準々決勝を最優先にした起用のなかでの結果だ。3敗それぞれの文脈は異なる。

試合中、最大のリスクは何だったか。キックオフの時点では、大差をつけられてバルセロナが主力を早々に下げる展開が最悪のシナリオに思えた。相手に余裕を与え、CL準々決勝に向けた温存まで許してしまう形だ。ところがニコの退場で状況は一変した。大差負けの心配より、10人のアトレティコが一方的に消耗させられること自体がカンプ・ノウへの最大のダメージになる。残り45分間、リスクの質が変わった瞬間だった。

今季のアトレティコには、劣勢を凌ぎ切る経験が足りなかった。リーガのホーム戦績は13勝1分2敗。強さの裏返しとして、追い込まれた状態から守り抜く場面を踏む機会が少なかった。その意味で、10人で後半を戦い、40分間バルセロナの猛攻に耐えた経験は決して無駄ではない。最終的に失点はしたが、タックル30回、ブロック7回、クリアランス16回という数字が身体を投げ出し続けた事実を裏付けている。少なからず相手のエネルギーも削ったはずだ。決して決定機を完封したとは言えない。それでも、87分まで同点を守り抜いた粘りには拍手を送りたい。

4日後のカンプ・ノウでは、今日のように押し込まれる時間帯が必ず訪れる。その局面でどれだけ最少失点で切り抜けられるかが、2試合合計での勝ち抜けを左右する。ムッソの反応速度、ルッジェーリのヤマル対応、ヒメネスの統率力。この試合で確認できた守備の軸は、CLのピッチでもそのまま武器になる。主力を温存しながらバルセロナ相手に90分を戦い抜いたという事実が、カンプ・ノウへの予行演習として機能した。CL準々決勝では、ベンチから見守っていたハンツコ、アルバレス、ルックマンがピッチに立つ。11日間3連戦は、まだ始まったばかりだ。

選手レーティング

選手名ItCFotMob寸評
フアン・ムッソ77.5ラッシュフォードの股抜きは悔やまれるが、後半のフェラン・トーレスに対する3連続セーブは圧巻。レヴァンドフスキの決勝点はリバウンドで不運。前半の乱闘騒ぎではコケを制止する冷静さも見せた。
ナウエル・モリーナ47.1守備では不安定な場面もあったが、11人の時間帯では右サイドの攻撃参加も見せた。
ロビン・ル・ノルマン46.8序盤のラッシュフォードに対するインターセプトは好判断。失点場面ではラッシュフォードに飛び込んでかわされ、ワンツーで裏を取られた。
クレマン・ラングレ57.1先制点をアシストしたロングボールは秀逸。守備でヤマルに手を焼く場面もあり、攻守の貢献が拮抗した。
ニコ・ゴンサレス05.4序盤からヤマルに何度も突破され、精神的に追い詰められていく過程が見えた。ハンドでのイエロー、DOGSOでの直接レッド。チームに45分間の数的不利を強いた。
ジュリアーノ・シメオネ77.3先制ゴールのトラップとフィニッシュは成長を感じさせる出来。守備でも走り続け、60分まで献身的に働いた。
コケ56.1中盤を引き締め、32分のシュートなど攻撃にも顔を出した。乱闘時の激昂でイエローを受け次節出場停止に。ハーフタイムで交代。
オベド・バルガス66.5離脱者が重なる中盤で90分を完走。破綻なくボールを動かし、リーガを回す戦力であることを証明した。
ティアゴ・アルマダ36.4序盤のパスミスが目立ち、好機を作り切れなかった。後半のジェラール・マルティンの踏み付けの被害者に。
アントワーヌ・グリーズマン56.59分の突破は圧巻だったがフィニッシュを決め切れず。27分のバエナのクロスも枠外。決定力があれば試合の構図は変わっていた。
アレックス・バエナ66.2前半に質の高いパスを2本供給。数字に残りにくいが、攻撃の起点を複数回作った。

途中出場

選手名ItCFotMob寸評
マッテオ・ルッジェーリ56.446分〜(←コケ)。今季4度目のヤマル対応で左サイドを落ち着かせた。CL準々決勝での先発が見込まれる。
ホセ・マリア・ヒメネス66.461分〜(←バエナ)。カンセロのシュートブロック、レヴァンドフスキへのクリアとガッツポーズ。最終ラインに闘志を注入した。
アレクサンダー・ソルロート55.661分〜(←ジュリアーノ・シメオネ)。10人の守備的展開でチャンスは限定的。85分にルッジェーリの浮き球に合わせ切れなかった。
ハビ・モルシージョ55.961分〜(←グリーズマン)。マドリレーニョ出身の若手がバルセロナ相手にデビュー。タッチ数6と守備に追われたが、トップレベルの経験を積んだ。
タウフィク・セイドゥ45.968分〜(←ラングレ)。トップチーム初出場。入りは控えめだったが徐々に積極性が出てきた。終盤のイエローは避けたかった。

※ ItCレーティングは Into the Calderón、FotMobレーティングは FotMob(Opta)準拠。xGは FotMob事後確定値を採用。試合スタッツは ESPN / FotMob を基に記載。