はじめに──40.5%という偏り

今季のアトレティコ・デ・マドリードには、ひとつの顕著な傾きがある。Opta(The Analyst)のデータによれば、ラ・リーガにおける攻撃の40.5%が右サイドから生まれている。リーグで3番目に高い偏重度だ。UEFAチャンピオンズリーグではさらに顕著で、44.2%に達する。36チーム中4位。ピッチの右側だけで、チームの攻撃のほぼ半分が動いている計算になる。

この数字の中心にいるのが、ジュリアーノ・シメオネだ。173cm、23歳。登録上のポジションは右ウイング。だが彼の実態は、その肩書きからは想像できない。守備時には最終ラインまで降りてRWBとなり、5バックの右端を担う。攻撃に転じれば一気にスプリントし、相手の最終ラインの裏を突く。90分のなかで右ウイング、右MF、右WBと、少なくとも3つのポジションを行き来する。

7000万ユーロ級のウイングに「最終ラインに入れ」と要求して、受け入れる選手がどれだけいるだろうか。ジュリアーノにとって、それは特別な犠牲ではない。単なる仕事だ。

本コラムでは、アトレティコの右サイドが試合中にどのように形を変えるのかを、3つのフェーズに分解して分析する。

第1フェーズ:守備ブロック──右ウイングが最終ラインに消える

アトレティコの守備は4-4-2を出発点とする。コケバリオスが中盤の中央に構え、2本のラインがコンパクトにスライドする。ディエゴ・シメオネが14年間磨き続けてきた基本形だ。

だが、相手がボールを保持して押し込んでくると、この形が静かに変わる。ジュリアーノが右サイドの高い位置から最終ラインまで降り、マルコス・ジョレンテの外側にポジションを取る。4バックが5バックに変形する瞬間だ。ジョレンテは右CBの脇にスライドし、ジュリアーノが最終ラインの右端を埋める。中盤は4枚から3枚になり、全体の陣形は5-3-2あるいは5-4-1へと移行する。

2025年10月のアウェイ、ベティス戦(0-2)で、この構造が鮮明に表れた。前半の先制点で試合を優位に進めたアトレティコは、後半にベティスがロ・セルソを投入して攻勢を強めると、ジュリアーノをRWBに落として5バックを形成した。Between the Postsの戦術分析によれば、アトレティコはジュリアーノをRWBに配置して5バックへ移行することで守備を補強し、ベティスの攻撃の流れを断ち切ったという。結果、後半の波状攻撃を凌ぎきり、クリーンシートで勝利した。

守備における数字も異常値を示している。The Analystのデータによれば、ジュリアーノの今季ラ・リーガにおけるボール奪取数は81回で、ウイングとして最多。タックルとインターセプトの合計は45回、これもウイング部門で1位だ。これらは本来、守備的MFやSBに期待される数値域であり、ウイングが記録する統計としては明らかに異質と言える。

父ディエゴ・シメオネはこう表現している。「(ジュリアーノは)買いに行っても手に入らないものを伝えてくれる。持っているか、持っていないか、そのどちらかだ」。最終ラインへの献身は、戦術ボードで指示できても、本人の覚悟なしには機能しない。

第2フェーズ:トランジション──5バックの右端から、一瞬でウイングへ

ジュリアーノの真価は、守備ブロックを形成した「あと」に発揮される。ボールを奪った瞬間、最終ラインの右端にいた23歳が、一気に右サイドの高い位置へスプリントする。5バックのRWBから、4-4-2あるいは4-3-3の右ウイングへ。この垂直方向の移動距離が、アトレティコのトランジションを起動するスイッチになる。

The Analystのデータは興味深い数字を示している。今季のアトレティコはラ・リーガにおけるボール奪取の平均位置が自陣ゴールから43m。これは2016-17シーズン(43.1m)以来の高さだ。一方、ボール保持率はシメオネ時代最高の53.3%を記録している。「低い位置で守って奪って速攻」という旧来のイメージとは異なり、より高い位置で奪い、より長くボールを持つチームに変貌しつつある。だが、5バックの深い位置からボールを奪い、一気に裏を取る「深→高」の垂直スプリントも依然として重要な武器であり続けている。

このフェーズでジュリアーノと不可分の関係にあるのがジョレンテだ。ジョレンテのキャリア自体が、ポジションの境界線を越え続けてきた歴史でもある。レアル・マドリードの下部組織でピボーテとして育ち、2019年にアトレティコへ移籍。2020年3月のCLリバプール戦(アンフィールドでの3-2勝利)で前線にコンバートされて2ゴールを挙げ、その後は右MF、右WB、そして現在の右SBへと役割を変えてきた。MF出身ゆえにビルドアップ時にはミッドフィールダーのようにボールを扱い、ジュリアーノが前に出ればジョレンテが後方をカバーし、ジュリアーノが最終ラインに降りればジョレンテが内側にスライドする。2人のスイスアーミーナイフが互いの動きを補完する構造だ。

ジュリアーノの裏への飛び出しは、量が質を生むタイプの武器と言える。CLリーグフェーズにおけるラン・イン・ビハインド(裏への走り)は53回で、ウイング部門2位。1試合で10回以上の裏への走りを記録した選手は今季のアトレティコで2例あるが、いずれもジュリアーノだ。そのすべてがチャンスに直結するわけではない。だが、走り続けることで相手の集中を削り、50回目、51回目の走りで生まれた一瞬の隙を突く。

ドリブル突破で局面を打開するタイプではない点も特徴的だ。ヴィニシウス・ジュニオールのようなフェイントや方向転換ではなく、直線的なスピードとオフザボールの動き出しの質で勝負する。The Analystによれば、ジュリアーノのキャリー(ボールを持って運ぶプレー)後のアシストは、2025年夏のクラブ・ワールドカップ以降で6回。ヨーロッパ5大リーグではミカエル・オリーズ(10回)、ヴィニシウス・ジュニオール(7回)に次ぐ3位だ。カットインが主流の時代に、右足で右サイドをえぐる直線型ウイングは希少種になりつつある。

第3フェーズ:崩し──右サイドからラインを破壊する

アタッキングサードに到達したとき、アトレティコの右サイドは最も危険な状態になる。ジュリアーノがバイラインへ侵入し、カットバックやクロスを供給する。中央にはフリアン・アルバレスやアレクサンデル・ソルロートが待ち構える。あるいはジュリアーノ自身がゴール前に飛び込む。

今季CLにおけるジュリアーノのラインブレイキングパス(相手の最終ラインを超えるパス)受信数は18本。全選手中1位だ。そしてアトレティコはチーム全体でもラインブレイキングパス総数48本でCL全体の1位に立つ。さらに注目すべきは、そのパサーが6人以上に分散している点で、これもCLで最多である。特定の司令塔がスルーパスを通すのではなく、誰もが裏へのパスを出せる設計になっている。バリオス、コケ、ジョレンテ、ル・ノルマンハンツコら、ディフェンダーからミッドフィールダーまで裏への供給者がチーム全体に埋め込まれている。しかもThe Analystが指摘するように、最もスルーパスの質が高いとされるバエナは負傷離脱でこの数字に含まれていない。合流すれば、この回路はさらに太くなる。

この構造は、具体的な試合で繰り返し結果を生んでいる。第7節レアル・マドリード戦(5-2)ではジュリアーノが右サイドを何度も突破し、ジョレンテとの連携からチャンスを量産した。第25節エスパニョール戦(4-2)ではジュリアーノが得点を記録。CLリーグフェーズ第2節フランクフルト戦(5-1)でもジュリアーノのヘディングゴールが生まれた。いずれも、右サイドの可変構造が機能した結果だった。

なぜ「右」なのか──設計された非対称

ここまで右サイドのメカニズムを分解してきたが、最後にひとつの問いが残る。なぜ左ではなく右なのか。

答えは、左右の設計思想が根本的に異なることにある。右サイドはジュリアーノ+ジョレンテの「可変レーン」だ。守備時には最終ラインの一角を担い、トランジションで垂直に加速し、アタッキングサードではバイラインからの崩しを担当する。多段階にモードが切り替わる回路である。

左サイドの設計は対照的だ。マッテオ・ルッジェーリは堅実なSBとして上下動を繰り返し、前線にはアデモラ・ルックマンニコ・ゴンサレスがカットインからフィニッシュを狙う。左は「仕上げ」の回路であり、右のような多段階の変形は組み込まれていない。

この左右非対称は偶然ではなく、意図的に設計されたものだろう。右で崩し、左で仕留める。あるいは右で守備を安定させ、左で高い位置を維持する。どちらの局面でも、左右が異なる機能を担うことで、相手は対応の優先順位をつけにくくなる。

ジュリアーノ・シメオネという選手が代替不可能と言われる理由も、ここにある。守備ラインに入る覚悟、トランジションの爆発力、右足ストレートランの希少性。これらを1人の選手が兼ね備えていることが、右サイドの可変構造そのものを成立させている。2026年1月に発表された2030年までの契約延長と5億ユーロの違約金条項は、クラブがこの不可替性を数字で表明したものだ。

「買いに行っても手に入らないもの」。父の言葉は、息子への賛辞であると同時に、右サイドの設計図そのものへの信頼宣言でもある。ジュリアーノが最終ラインに降りるたび、アトレティコは形を変え、そしてその形の変化が、40.5%の偏りを生み出している。

今日のチョリスモ実践
自分のポジションに固執せず、チームが必要とする場所に動く。それがピッチの上でも職場でも、「可変レーン」の本質だ。