試合の輪郭──前半の支配と、10人相手に詰め切れなかった後半
プレビューで最大の焦点に据えたのは、「押し込めるかではなく、押し込み切れるか」だった。答えは半分だけ返ってきた。
アトレティコ・マドリードはラ・リーガ第28節でヘタフェをホームに迎え、1-0で勝利した。ナウエル・モリーナが8分に決めた25ヤード超のスーパーゴールが唯一の得点。保持率66%、シュート16本、コーナー10本。数字だけを見れば完勝に近い。だが、10人になった相手に追加点を奪えず、むしろ後半はヘタフェにビッグチャンス4つを作られた事実が、この勝利に注釈をつけている。xGは1.48対1.18。数的優位の時間帯を含めてこの僅差は、押し込んだ時間の長さが得点の量に転換できなかった証左だ。
リーグ4連勝。勝ち点57で3位に浮上し、4位ビジャレアルとの差は2ポイントに広がった。だが首位バルセロナとは10ポイント差、2位レアル・マドリードとも9ポイント差がある。3位を固めながら上との差を詰めるには、こうした試合で2点目を取り切る力が不可欠になる。
モリーナの一撃──キコのミスから生まれた25ヤードの弧
試合はわずか8分で動いた。キコ・フェメニアのルーズなボールコントロールを見逃さなかったモリーナが、右サイドの高い位置でボールを奪う。そこから迷いなく右足を振り抜いた。約25ヤードの距離から放たれたシュートは弧を描きながらダビド・ソリアの手の届かない右上隅に突き刺さった。xG0.01──統計が「ほぼ入らない」と判断する位置から叩き込んだ一撃だった。
「彼にはあのシュートがある。中距離砲は非常に良いものを持っている」。シメオネは試合後、モリーナの得点力を端的に評した。実際、モリーナはこの試合でチーム最多の5本のシュートを放ち、25分にもエリア外から枠内に飛ばしてソリアのセーブを引き出している。ライトバックの選手がこれだけの頻度でフィニッシュに絡むこと自体、アトレティコの右サイドの設計がうまく機能していた証拠だろう。守備面でもタックル3、クリアランス3、インターセプト3を記録し、攻守両面でこの試合のベストプレーヤーだった。
ただし、早い時間帯の先制はプレビューで触れた「第二条件」──複数得点を狙うこと──への入口に過ぎなかったはずだ。29分にはアレックス・バエナのクロスからアレクサンダー・ソルロートがヘディングで右ポストを叩き、45+1分にはバエナのパスからモリーナが至近距離で右に外した。前半だけで2-0にできた場面が少なくとも二つあった。前半のシュートは8対0、ヘタフェはフアン・ムッソを一度も脅かすことすらできなかった。内容は圧倒的だっただけに、この時間帯に試合を決められなかったことが後半の苦労を招くことになる。
アブカル退場──混乱の中のレッドカード
55分、試合が一変する場面が訪れた。ただし、それは勝負の流れを決定づけたという意味ではなく、混乱を生んだという意味で、だ。
主審のミゲル・アンヘル・オルティスが試合を止め、VARとの交信に入った。しかし、何が起きたのか、どの場面を確認しているのか、スタジアムの大型スクリーンに映るまではほとんどの人間に分からなかった。ピッチ上でも困惑が広がっていたように見えた。やがてリプレイが流れ、ヘタフェのアブデルカビル・アブカルがオフ・ザ・ボールの場面でソルロートの股間に手を伸ばしていたことが判明する。ソルロートはアブカルを引き倒して報復。主審はピッチサイドモニターを確認したうえで、アブカルにレッドカード、ソルロートにイエローカードを提示した。
「あの部分に触れる意図はなかった」とアブカルは試合後にMovistar+で語った。一方、ムッソは「30年前ならこういうことはあった。今はもう許されない。審判は正しい判断をした」と明確に支持した。映像だけでは即座に判断しづらい事象であり、放送を見ていた視聴者も後から説明を受けて初めて納得した人が多かったのではないだろうか。
この退場でヘタフェは10人になったが、試合の流れはそう単純に傾かなかった。
10人のヘタフェが見せた強さ──後半の数字が語ること
後半の数字は、ひとつの前提を突き崩す。「10人になれば押し込める」──そんな常識が通用しなかった。
ヘタフェの全7本のシュートは、すべて後半に記録されたものだ。前半のシュート0本から一転、ホセ・ボルダラスのチームは人数が減ったことを感じさせないどころか、むしろ攻撃の意志を鮮明にした。後半開始直後にはサトリアーノがムッソと1対1の場面を作り、72分にはアランバリがボックス内からシュートを放つ。81分のルイス・ミージャの枠内シュートはムッソの好セーブに阻まれ、90+6分にはアドリアン・リソのヘディングが再びムッソの手に収まった。ビッグチャンスは4つ。いずれも決まっていれば同点だった。
プレビューで詳しく書いた通り、ヘタフェは「低保持でも勝てるチーム」に冬の補強を経て変貌している。レアル・マドリード相手に保持率23%で完封勝利したあのチームにとって、10人で34%しか持てない状況は苦しくとも、絶望的ではなかった。少ない保持の中から局面を作り、一撃で仕留める──そのメカニズムは人数が減っても消えなかった。
筆者としては、ここにこの試合最大の問題点を見る。前半は確かに良い内容だった。だが、後半に主力を投入──66分にアルバレス、ルックマン、ジュリアーノ・シメオネ、73分にグリーズマンとジョレンテ──したにもかかわらず、10人の相手を押し込み切れなかった。シメオネ自身も「後半にもっとやれたはず。2-3の明確なチャンスを逃した」と認めている。アルバレスのシュートがドゥアルテのクリアに阻まれた82分の場面、グリーズマンのカウンターからのシュートがソリアの正面に飛んだ場面。チャンスがなかったわけではない。だが、そのチャンスの数と質は、11対10の時間帯としては物足りなかった。
来季のリーガを見据えるなら、格下相手に「押し込み切る」力は早いうちに形にする必要がある。今季これまでも、先制後に試合を殺し切れず相手に流れを渡す展開は散見されてきた。勝ち切る底力があることはこの4連勝が証明しているが、勝ち切ることと試合を支配し切ることは別の問題だ。
ムッソ──21世紀初の記録、オブラク不在を感じさせない壁
この試合の最大の功労者は、先発予定ではなかった男だった。
ヤン・オブラクが試合直前に負傷し、急遽先発に回ったフアン・ムッソ。ラ・リーガでの出場はこれが4試合目だったが、そのすべてでクリーンシートを達成した。OptaJoseによれば、21世紀のラ・リーガで最初の4試合すべてで無失点を記録したGKはムッソが初めてだ。
前半は仕事がほとんどなかった。ヘタフェのシュートはゼロで、ムッソは落ち着いてゲームを見守っていればよかった。真価を問われたのは後半だ。後半開始直後、サトリアーノが左サイドから放った至近距離のシュートを体で弾く。これがなければ、試合はまったく違う流れになっていた可能性がある。81分にはミージャの枠内シュートに反応してダイビングセーブ。そして最も危険だったのが90+6分、交代出場のリソがイグレシアスのクロスに合わせたヘディング。ムッソは右下に飛びつき、辛うじてボールをかき出した。セーブ3本、xGOT(枠内シュートに基づく期待ゴール値)1.13を完封する仕事だった。
「ファンタスティックだった」とシメオネはムッソを評した。その一言に集約される。後半のアトレティコが攻め切れなかった時間帯を、一人の守護神が埋めた。オブラクの不在を不安視する声は試合前にあったはずだが、ムッソはその懸念を完全に払拭した。
バエナとバルガス──ローテーションの中の収穫
チャンピオンズリーグのトッテナム戦第2戦を水曜に控え、シメオネはほぼ全面的にメンバーを入れ替えた。その中で、プレビューで注目した三人──バエナ、ソルロート、アルマダ──はいずれもスタメンに名を連ねた。
バエナは、直近のレアル・ソシエダ戦とトッテナム第1戦で出番がなかった悔しさをぶつけるかのように、この試合で最も創造的なプレーを見せた選手だった。29分のソルロートへのクロスは、ヘッドこそポストに嫌われたが、速攻からの正確な配球はアシストに値する質だった。45+1分にもモリーナへのラストパスを通しており、これが決まっていれば前半のうちに試合は終わっていた。Into the Calderón(ItC)もバエナの評価に「シーズンを通じて見せられなかった創造性をこの試合では発揮した」と記している。完璧とまでは言えないが、よく走りボックス内で危険な仕事をした点は確かに評価できる。
もう一つの収穫はオベド・バルガスだ。元シアトル・サウンダーズのこの若手MFは、この試合がアトレティコでの初先発。68分にミージャへのファウルでイエローカードを受けた場面を除けば、ボール保持時も守備時も落ち着いたプレーを見せた。ボールを持つことを恐れず、パスの判断も的確で、守備ではタックルにも積極的に入った。FotMobレーティング7.5はスタメンの中でも上位に位置する数字だ。
シメオネは試合後にバルガスを名指しで評価した。「あの子はよくやった。出場時間が少ない中で、攻守ともにチームのために働いた。疲れてきたのは当然で、ジョレンテに替えた」。ローテーション要員としてこの水準のプレーを安定して出せるなら、過密日程のチームにとっては大きな財産になる。筆者にとっても嬉しい誤算だった。決定的なパスの供給が増えてくれば、さらに評価は上がるだろう。
一方、アルマダは期待に応えきれなかった。スペースに入って受ける動きは見せたものの、最終局面で危険なプレーを作れず、ItC評価は4.5。前半にカットバックを選んでチャンスを潰した場面は、2-0にする絶好機だっただけにもったいなかった。
マドリード・ダービーの記録と、リーグ戦の現在地
この勝利により、アトレティコはマドリード共同体内のチームとのホームリーグダービーで12試合無敗(8勝4分)となり、直近6連勝はクラブ史上初の記録となった。Optaによれば、ヘタフェとのリーグ戦でも直近27試合で22勝4分1敗と圧倒的な相性を誇る。
とはいえ、この試合が残した問いは記録の数字よりも重い。順位表では3位に浮上し、4位ビジャレアルに2ポイント差をつけたが、首位バルセロナとは10ポイント、2位レアル・マドリードとは9ポイントの差がある。優勝争いに食い込むには、こうした試合で内容と結果の両方を確保しなければならない。次戦は3月18日(水)、チャンピオンズリーグ・ラウンド16第2戦のトッテナム・ホットスパー戦。第1戦で5-2と大きなアドバンテージを得ている一戦だが、ヘタフェ戦で見えた後半の停滞をそのまま持ち込むわけにはいかない。
勝ち点3は手にした。だが、この1-0が照らし出したのは、アトレティコが今季抱え続けている「最後の一押し」の課題だ。シメオネは前半の内容を「スペクタキュラー」と称えたが、同時に後半への不満も隠さなかった。前半の設計で試合を動かし、後半の消耗戦を耐え切る──それができるのは間違いなく強いチームだ。しかし、リーグ終盤に勝ち点差を詰めるためには、「耐え切る」のではなく「畳み切る」試合が必要になる。その力をいつ手にするか。答えは、これからの試合が出してくれるだろう。
選手レーティング
| 選手 | ItC | FotMob | 寸評 |
|---|---|---|---|
| ムッソ | 8 | 8.5 | 後半のセーブ3本でクリーンシートを死守。ラ・リーガ4試合連続無失点は21世紀初の快挙(OptaJose) |
| ヒメネス | 7 | 7.7 | 10クリアランスを記録し、守備のアンカーとして機能。バスケスへのアクロバティックなブロックが光った |
| ラングレ | 6.5 | 7.6 | 6クリアランス、2インターセプト。ポジショニングのミスが少なく安定した出来 |
| プビル | 7 | 7.6 | ビルドアップに参加しソリアのセーブを引き出すシュートも。デュエル5/6勝利。66分〜(←ジュリアーノ・シメオネ) |
| モリーナ | 8 | 8.5 | xG0.01の位置から右上隅に叩き込んだスーパーゴール。シュート5本、タックル3、インターセプト3 |
| バルガス | 6.5 | 7.5 | 初先発で堅実なパフォーマンス。ボール保持に臆さずタックルにも積極的。73分〜(←ジョレンテ) |
| コケ | 6 | 7.9 | 102タッチは全体最多。キーパス4本で展開の基盤を築いた。34歳のベテランが試合のテンポを握る |
| アルマダ | 4.5 | 6.4 | スペースで受ける動きは見せたが最終局面で不発。前半のカットバック判断はもったいなかった。66分〜(←ルックマン) |
| ニコ・ゴンサレス | 5.5 | 7.3 | 前半は左サイドで活発に仕掛けたが、後半は存在感が薄れた |
| バエナ | 6.5 | 7.1 | ソルロートへのクロス(ポスト直撃)、モリーナへのラストパスなど創造性を発揮。73分〜(←グリーズマン) |
| ソルロート | 4 | 7.1 | ヘディングがポスト直撃の不運。アブカル事件で精神的に乱れイエロー。66分〜(←アルバレス) |
| 交代選手 | ItC | FotMob | 寸評 |
|---|---|---|---|
| ジュリアーノ・シメオネ | 4 | 6.4 | 66分〜(←プビル)。推進力を見せるも、自分で打てた場面でパスを選択。リソのヘッドを許す守備対応も |
| ルックマン | 4.5 | 6.4 | 66分〜(←アルマダ)。ドリブルで仕掛けるもソリアを破れず。グリーズマンへの落としは質が高かった |
| アルバレス | 5 | 6.3 | 66分〜(←ソルロート)。82分のシュートはドゥアルテのライン上クリアに阻まれ不運 |
| ジョレンテ | 5 | 6.2 | 73分〜(←バルガス)。疲弊したヘタフェの右サイドを突く素早いドリブルでテンポを上げた |
| グリーズマン | 4.5 | 6.9 | 73分〜(←バエナ)。エリア外のシュートは枠外、カウンターの好機はソリアの正面に |
※ItC = Into the Calderón、FotMob = FotMobレーティング。交代選手の「←」は交代元の選手を示す。