6分の失点──カレラスの動き出し、ジョレンテの死角
リヤドエア・メトロポリターノに集まった56,412人は、キックオフからわずか6分で沈黙した。
エスパニョールは5-4-1のローブロックを敷いてくると予想されていた。しかし開始直後、アトレティコの左サイドにぽっかりと空間が生まれる。ティリス・ドランがアトレティコの左サイドを突破してペナルティエリア内へ低いクロスを送ると、ジョフレ・カレラスがジョレンテの背後から飛び込んで至近距離で押し込んだ。カレラスの動き出しは見事というほかなく、ジョレンテは完全に外された。
シメオネは試合後の会見で「幸運と、守備判断のミスが重なった」と振り返った。幸運とはエスパニョール側のことだろう。だがカレラスの一瞬のスプリントを「幸運」で片づけるには、あまりにもタイミングが完璧だった。
21分、ジョレンテの贖罪──ソルロートの左足一閃
15分後、ジョレンテが帳消しにした。
エスパニョールが自陣ペナルティエリア付近でボールを失い、アトレティコがショートカウンター気味にボールを運ぶ。右サイドに流れたジョレンテは、6ヤードボックス奥に走り込んだソルロートを見逃さなかった。ファーポストへの精度の高いクロスに対し、ソルロートは左足でダイレクトに流し込んだ。1-1。
華麗な崩しとは言いがたい。ごちゃごちゃとしたトランジションの中で、ジョレンテの機転とソルロートの反応が噛み合って生まれたゴールだった。だが、それでいい。美しく勝つことよりも、とにかく勝つこと。シメオネが十何年も掲げてきた哲学そのものだ。
前半のグリーズマン──トラップの美と、決めきれなさ
前半のアトレティコで最も多くのチャンスに絡んだのはグリーズマンだった。この日はインサイドミッドフィールダーとして深い位置からゲームメイクに参加し、守備でも高い位置からのプレスに関与した。
10分、バエナからのパスを受けて左足で放ったシュートはドミトロヴィッチが好セーブ。33分にはバエナのクロスからヘディングシュートを放つも、これもドミトロヴィッチに阻まれた。39分の左足のシュートも同じ結末。27分にはプビルからのスルーパスを落ち着いたトラップで収め、左足で放ったが枠を捉えられなかった。このトラップの質は本当に美しかった。プレッシャー下で一切慌てず、ボールを足元に吸いつかせるような所作は、グリーズマンの技術と判断が凝縮された瞬間だった。
ItC評6、FotMob 7.6。評価は割れたが、シュートチャンスが4回あって無得点という事実は本人が一番悔しいだろう。ドミトロヴィッチの好守がなければ、前半だけで2ゴールがあり得た。
後半開始4分──バエナのアシスト、G.シメオネの涙
後半の入りは明らかに前半とは別のチームだった。アトレティコは後半開始直後から連動したハイプレスでエスパニョールを圧迫し、相手に無理なロングボールを蹴らせるシーンが繰り返された。ソルロートが前線からプレスの方向を声で指示し、バエナとカルドソがその指示に呼応して中盤の網を絞る。ソルロートはフル出場で攻守両面に貢献しており、そのクオリティの高さは今季随一だった。
49分、その圧力が実を結ぶ。バエナがペナルティエリア内の密集を通す繊細なショートパスを送り、G.シメオネが受けてドミトロヴィッチの股下を冷静に抜いた。2-1。
バエナのこの日は二面性があった。前半は遠目からの無理なシュートやボールロストが目立ち、やや焦りが見えた。だが、このアシストのような「他の誰にも見えないパス」を一本通せるのがバエナという選手の本質だ。シメオネはこのパスを「見えて、知っている選手のプレー」と表現した。このクオリティのパスが試合の中で増えていけば、バエナの存在価値はボールロストの数を遥かに上回るものになっていくだろう。
G.シメオネにとっても待望のゴールだった。直近の試合ではファイナルサードでの精度を欠いていたが、この冷静な一撃で全大会通算13ゴールに関与(6得点、7アシスト、35試合出場)。これは昨季の通年記録(13関与:5得点、8アシスト、47試合)に今季途中で並んだ計算になる。ゴール後、チームメイトに駆け寄って見せた喜びの表情には、このクラブへの愛情が溢れていた。
ルックマン、リーガ初ゴール──セットプレーの再現性
58分、コーナーキック。ルッジェーリがニアサイドでヘディングのフリックオンを決め、ファーポストに飛び込んだルックマンがダイビングヘッドで合わせた。3-1。
ブルージュ戦に続き、2試合連続でバックポストからのヘディングゴール。偶然ではない。ルックマンはゴール前でのポジショニングの質が高く、しかもルッジェーリとの連携でセットプレーから得点を量産する「形」ができつつある。
アデモラ・ルックマンのアトレティコでのラ・リーガ初ゴールだ。冬の移籍市場でアタランタから加入して以来、ラ・リーガ3試合目。フィジカルの強さとボールコントロールの安定感が際立ち、高いプレッシャーを受けても簡単にボールを失わず、味方にきちんとつなげる。まだフィットの途上であることを考えれば、この先が楽しみでしかない。
ソルロートの夜──2発目のヘッドとポスト直撃
この試合のベストプレーは、実はゴールにならなかったプレーかもしれない。
69分、ルッジェーリのスルーパスを受けたソルロートが、2人のディフェンダーを背負いながらボールを収め、左足で放ったシュートはポストを直撃した。シメオネは試合後、このシーンについて「あれは他の2ゴールよりさらに良かった」と語った。2人を背負いながらの身体の使い方、そこから枠内に飛ばすシュート技術。ノルウェーの巨人の凄みが凝縮された一撃だった。
72分、ルッジェーリが左サイドからクロスを上げる。ソルロートが中央で力強く跳び、ヘディングをポスト内側に叩きつけた。4-1。ラ・リーガ今季9ゴール目。
筆者としては、今日のソルロートのシュートセンスは今季のベストだったと感じている。流し込み、ポスト直撃、パワーヘッド。異なる3種類のフィニッシュを1試合で見せたストライカーに、FotMob 9.0という最高評価は当然だ。チャンピオンズリーグやコパ・デル・レイで大金星を掴み取るには、このレベルのセンターフォワードの決定力が不可欠になる。
ルッジェーリは58分と72分のゴールでそれぞれアシストを記録し、この日だけで2アシスト。クラブ愛をInstagramで発信し続ける左利きのウイングバックに数字が付いたのは、本人にとっても大きな一日だったはずだ。
80分の失点──終盤の緩みと残された課題
4-1で試合は決まったかに見えた。だが80分、エドゥ・エクスポシトがペナルティエリア左から放ったシュートが偏向してオブラクの逆を突き、4-2。
オブラクのこの日は、本来の彼ではなかった。1失点目はカレラスの至近距離からのシュートだったが、調子のいいオブラクなら止めていたとInto the Calderónは指摘する。2失点目もペナルティエリア外からの一撃で、世界最高峰のキーパーが「あの位置から打たれて決められること自体が物足りない」という厳しい評価が並んだ。ItC 5、FotMob 5.8。
70分にはエスパニョールのンゴンジェのシュートがクロスバーを叩く場面もあった。終盤の集中力は、火曜日のブルージュ第2戦に向けた明確な課題だ。結果的にこの2失点が響き、ビジャレアルと同勝ち点(48)ながら得失点差で4位のまま。3位浮上はお預けとなった。
交代と体力管理──ブルージュ第2戦を見据えて
61分、バエナとルックマンが同時にピッチを後にした。コケとJ.アルバレスが代わりに入る。活躍した2人を早めに下げたのは、中2日で迎えるCLプレーオフ・ブルージュ第2戦を見据えた体力管理の意味が大きい。スタンドからはスタンディングオベーションが送られた。
74分にはグリーズマンに代えてアルマダ、ジョレンテに代えてモリナ。さらに84分にはG.シメオネに代えてル・ノルマンが投入された。
G.シメオネはゴールこそ挙げたものの、全体的にパスの精度が不安定で、中盤エリアでボールを失うシーンが散見された。FotMob 8.2はゴールのインパクトが大きいが、それ以外のプレーにはまだ波がある。だからこそ、この日のゴールの価値は大きい。自信の積み重ねが、波を小さくしていく。
交代で入ったアルバレスは左サイドからソルロートの背後に入ろうとしたが、効果的な場面を作れなかった(ItC 4、FotMob 6.0)。モリーナもパスミスや攻撃の遅延が目立ち(ItC 3、FotMob 6.4)、ブルージュ戦のメンバー選考にはやや不安を残す内容だった。アルマダはドミトロヴィッチをドリブルで抜きながらゴールラインの上で相手DFに阻まれ、5点目を逃した(ItC 5、FotMob 6.6)。
心配なのはバエナだ。試合後、左足に氷嚢を当てている姿が確認された。前半11分にも負傷で一時プレーが中断しており、ブルージュ戦への影響が懸念される。
カルドソの静かな支配力
この日、シメオネが記者会見で最初に名前を挙げて称賛したのがジョニー・カルドソだった。
「徐々に力を増していった。攻撃性、強度、チームプレー、サイドチェンジ──アトレティコに彼がいる理由そのものを見せてくれた。非常に良い試合だった」
バエナが自由に前線に絡めたのは、カルドソがアンカーの位置で黙々とボールを刈り取り、守備の安定を一手に引き受けていたからだ。ボール奪取の安定感は今季でも屈指の出来だった。華やかさはないが、この試合の4ゴールの土台を作ったのは間違いなくカルドソだ。ItC 7、FotMob 8.2。
数字で見るエスパニョール戦
xG 2.89 対 1.06(FotMob)。シュート18本(枠内9本)対8本(枠内2本)。ポゼッション61.2%対38.8%。ビッグチャンス5対1。パス成功率86%対78.3%。数字のうえでは完勝に近い。
アトレティコはこの勝利でラ・リーガ3試合ぶりの白星を手にした。ベティス戦0-1、ラージョ戦0-3と続いた直近のリーガでの無得点が嘘のように、この日は4ゴールを叩き込んだ。
順位表では4位、勝ち点48。首位レアル・マドリード(60pts)との差は12ポイント。優勝争いへの復帰は現実的に難しいが、3位ビジャレアルとは同勝ち点であり、CL出場権をめぐる争いは最後まで続く。5位レアル・ベティスとは6ポイント差があり、一定のバッファは確保した。
次の戦いは中2日。2月25日(火)、チャンピオンズリーグ・プレーオフ第2戦、ホームでのクラブ・ブルージュ戦。第1戦は敵地で3-3の打ち合いに終わっている。シメオネは「ブルージュはリーグで控え選手を使っている。フレッシュな相手に、同じ姿勢で臨まなければならない」と警戒した。メトロポリターノの夜、今日の勢いを持ち込めるかが問われる。
選手採点
先発メンバー
| 選手 | ItC | FotMob | 寸評 |
|---|---|---|---|
| オブラク | 5 | 5.8 | 好セーブの見せ場がなく、2失点とも止めて当然という評価が並ぶ不満の残る夜。 |
| ジョレンテ | 7 | 7.9 | 6分の失点は痛恨も、21分のクロスで即座に帳消し。74分までフル稼働し貢献した。 |
| プビル | 7 | 7.9 | 前半のパス供給が安定し、ロングフィードでソルロートを狙うシーンもあった。 |
| ハンコ | 7 | 7.1 | ビルドアップの質はチーム屈指。ペナルティエリアへの侵入からあわやゴールの場面も。 |
| ルッジェーリ | 7 | 8.9 | 2アシスト。ソルロートとの左サイドの連携がこの日は抜群だった。 |
| G.シメオネ | 7 | 8.2 | 待望のゴール。中盤でのパスミスも目立ち、課題と収穫が同居した一日。 |
| カルドソ | 7 | 8.2 | シメオネが会見で真っ先に称えた男。ボール奪取の安定感でバエナの攻撃的配置を支えた。 |
| バエナ | 7 | 7.9 | 前半のボールロストと後半のアシスト、二面性の1日。左足の状態がブルージュ戦に向けて気がかり。 |
| ルックマン | 6 | 7.5 | リーガ初ゴールを記録。2試合連続のバックポストからのヘッド。 |
| グリーズマン | 6 | 7.6 | 4回の決定機を逃したのは痛いが、インサイドハーフのゲームメイクは効いていた。 |
| ソルロート | 8 | 9.0 | 文句なしのMOM。3種類のフィニッシュを1試合で披露し、リーガ今季9ゴール目。 |
交代出場
| 選手 | ItC | FotMob | 寸評 |
|---|---|---|---|
| コケ(61分〜←バエナ) | 6 | 7.0 | 中盤の安定を維持しつつ、自らも前線に顔を出す余裕を見せた。 |
| J.アルバレス(61分〜←ルックマン) | 4 | 6.0 | 左サイドからソルロートの背後に入ろうとしたが、試合に影響を与えられなかった。 |
| モリナ(74分〜←ジョレンテ) | 3 | 6.4 | パスミスが複数あり、攻撃を遅らせる場面も目立った。 |
| アルマダ(74分〜←グリーズマン) | 5 | 6.6 | ドリブルでGKを抜きながらゴールラインの上でブロックされ、5点目を逃した。 |
| ル・ノルマン(84分〜←G.シメオネ) | n/a | — | 出場時間が短く評価対象外。 |