8人不在でも手を抜かなかった理由
2026年5月12日、エスタディオ・エル・サダル。ラ・リーガ第36節、オサスナ対アトレティコ・マドリード。バルセロナがすでにリーガ制覇を決め、アトレティコも来季のUEFAチャンピオンズリーグ出場権を確保していた状況での一戦だった。タイトルやCL出場権という大きな目標には決着がついていたが、3位争いと来季に向けたチーム構築の材料は残っている。CL準決勝でアーセナルに敗れ、第35節セルタ戦でも0-1と落としたあとだけに、このアウェイ戦はチームの姿勢が問われる場面でもあった。
チーム状況は決して軽くなかった。フリアン・アルバレス、パブロ・バリオス、ホセ・ヒメネス、ナウエル・モリーナ、ジュリアーノ・シメオネ、ジョニー・カルドソ、ニコ・ゴンサレスの7人が負傷離脱し、アレックス・バエナも出場停止。計8人をファーストチームから欠いた。それでも先発には、グリーズマン、ルックマン、コケ、プビルらが並んだ。シメオネは、残り試合を流すようなメンバー選択にはしなかった。
試合前日の記者会見でシメオネは、リーガ制覇を決めたバルセロナについて、報道によれば「世界で最も良いサッカーをするチーム」と称えたうえで、「そのバルセロナを我々は2度倒した」と語った。コパ・デル・レイ準決勝では第1戦を4-0で勝ち、第2戦は0-3で敗れながらも合計4-3で突破。CL準々決勝でも敵地で2-0と勝ち、ホームで1-2と敗れながら合計3-2で勝ち上がった。タイトルには届かなかったが、強い相手に対して競争力を示したシーズンではあった。残り試合は単なる消化ではなく、来季に向けて何を積み上げるかを問う時間でもある。
GKにはヤン・オブラクではなくフアン・ムッソが先発した。起用の明確な理由は公には示されていない。コパ・デル・レイではムッソが出場する流れがあったが、リーグ戦でこのタイミングに起用されたことは、来季の序列を考えるうえでも一つの材料になる。
VARで得たPK、15分のルックマン弾
試合は10分過ぎ、アントワーヌ・グリーズマンのプレーに対してハビ・ガランのハンドが確認された。ガランは2025年12月にアトレティコからオサスナに移籍した選手であり、古巣相手に痛い反則となった。主審のグスマン・マンシージャは当初ファウルを取らなかったが、VAR介入後にPKが与えられた。
キッカーを務めたのはアデモラ・ルックマン。グリーズマンではなくルックマンがボールを置き、左下隅に冷静に流し込んだ。15分、アトレティコが先制した。
ただし先制後、試合のリズムを握ったのはオサスナだった。FotMobベースではシュート数が23本対5本、枠内シュートが5本対4本、xGが2.30対1.56。アトレティコは効率よく2点を奪った一方で、オサスナが勝点を得ても不思議ではない試合だった。
ブディミルの決定機とムッソのセーブ
前半のアトレティコの守備は綱渡りだった。18分にはロドリゴ・メンドーサが筋肉系のトラブルとみられる負傷で退き、ロビン・ル・ノルマンが急遽投入される。すでに膨れ上がっていた負傷者リストにまたひとつ名前が加わった。ル・ノルマンがCBに入り、プビルが右SBへスライドする形でフォーメーションを整えたが、前半のバランスはあまり良くなかった。
特に危うかったのはアンテ・ブディミルへの対応だ。コケが自陣でのバックパスをブディミルに直接渡してしまい、1対1の決定機を与えた場面では、ブディミルがバーの上に外して事なきを得た。さらに前半終了間際にはムッソがブディミルと交錯し、主審がPKとイエローカードを宣告。しかしVARレビューの結果、ムッソのボールへの先触りが確認され、PKもカードも取り消された。
ムッソはこの場面だけでなく、65分にはフリーのブディミルのシュートを鋭い反応で弾き、85分前後にもアレハンドロ・カテナのシュートを処理するなど、この試合のアトレティコの守備における中心だった。
ソルロート71分のヘッド、ジョレンテ退場、最後の11分間
後半開始と同時にシメオネはチアゴ・アルマダに代えてアレクサンダー・ソルロートを投入し、フォーメーションを5-4-1に変更した。ルックマン、グリーズマン、コケが2列目に並び、ソルロートを最前線のターゲットとする形だ。
その形から追加点が生まれたのが71分だった。プビルのパスを追いかけたマルコス・ジョレンテがクロスを上げ、ファーサイドでフリーになっていたソルロートが頭で合わせた。リーグ13得点目で、全大会では20ゴールに到達。2シーズン連続で全大会20ゴールに乗せたことは、今季のアトレティコにおける彼の得点力を示している。
しかし安泰には程遠かった。79分、ジョレンテがアイマール・オロスへのファウルで2枚目の警告を受けて退場。最後の11分間を10人で守ることになった。シメオネは82分にルックマンを下げてクレマン・ラングレを投入し守備を固めたが、ラングレはキケ・バルハの90+1分のゴールでポジションを外された。さらにアディショナルタイムにはブディミルの首に腕を回して押さえつける場面があり、VARが介入しなかったことにオサスナ側は猛抗議。最終的には1-2で逃げ切ったものの、スコア以上に苦しい勝利だった。
来季への視点──チーム構築につながる材料
ここからは筆者の視点で来季への戦力的な所感を述べたい。
まず、オベド・バルガスの成長ぶりは特筆に値する。2月にシアトル・サウンダーズから加入した20歳のメキシコ代表MFは、ボールを持てば前に運び、奪われれば即座に切り替える。この試合では地上戦デュエル勝率8/10、ドリブル成功3回と、中盤の強度をチームに供給できるだけの材料を示した。来季もレンタルに出すことなくチームに残すべき戦力だと考える。
メンドーサについては、冬の移籍で加入しポテンシャルを見せてきたが、今回の負傷離脱も含め安定感にはまだ課題がある。来季の補強次第では、レンタルで出場機会を確保するという選択肢もあり得るだろう。
アルマダは前半で交代を告げられ、この試合でも評価を上げる内容ではなかった。ItCは2点という厳しい数字をつけている。値段が付く段階で放出を検討する価値はあるように思う。
ソルロートについては、2シーズン連続で全大会20ゴールという実績を見れば、放出しない選択にも十分な合理性がある。一方で、来季のアトレティコがグリーズマンへの依存を下げる攻撃設計を志向するなら、より決定力の高い純粋なストライカーの補強も検討に値する。オシムヘンのような選手は理想像の一例だろう。
最後にムッソについて。これはこの試合だけでの評価ではなく、今季を通じた印象でもあるが、来季はベストメンバー争いに本格的に絡んでほしいと思っている。オブラクの実績は揺るがない。それでも、ムッソはこの試合でもブディミルの決定機を止め、反応速度と判断力を示した。少なくとも、単なる控えGKとして片づけるには惜しい存在だと感じている。
3位ビジャレアルとの差、残り2試合の現実
この勝利でアトレティコは勝点66に伸ばし、暫定4位を維持した。3位ビジャレアルとの差は3ポイントだが、ビジャレアルは35試合消化で1試合未消化のため、3位争いは自力ではない。残り2試合は第37節ジローナ(ホーム、5月17日)と第38節ビジャレアル(アウェイ、5月24日)。最終節で直接対決が控えている構図だが、ビジャレアルが未消化の試合で勝点を積めばアトレティコの3位浮上は遠のく。
とはいえ、リーグ戦直近4試合で3勝という流れ自体はポジティブだ。今季のアウェイ戦績はこの試合を含めて6勝5分7敗、得失点差±0。ホームでの強さと比べると、敵地では苦しんだシーズンだった。内容で圧倒した勝利ではない。それでも、エル・サダルのような難しいアウェイで3ポイントを持ち帰れたことは、来季に向けて小さくない材料として受け取りたい。
CL準決勝敗退、コパ決勝のPK負け、リーガでの優勝争い脱落。タイトルなしに終わるシーズンでも、残り2試合をどう使うかには意味がある。来季の土台を組むためにも、ジローナ戦とビジャレアル戦でどれだけ真剣に競争を続けられるか。シメオネが示してきた姿勢が、最後までピッチに反映されることを期待したい。
選手レーティング
先発メンバー
| 選手 | ItC | FotMob | 寸評 |
|---|---|---|---|
| フアン・ムッソ | 7 | 7.9 | ブディミルに何度も立ちはだかった。VARに救われた場面もあったが、65分の横っ飛びのセーブは圧巻。 |
| マルコス・ジョレンテ | 6.5 | 7.0 | RBから始まり中盤まで務めたユーティリティぶり。ソルロートへのアシストの直後に退場。 |
| マルク・プビル | 7 | 7.8 | メンドーサ離脱後にRBへ移動。ドリブルからの枠内シュートもあり、代表入りを期待させるだけの存在感を示した。 |
| ダビド・ハンツコ | 6 | 7.1 | 前半のボックス内守備は堅実。パス精度はやや不安定だった。 |
| マッテオ・ルッジェーリ | 3.5 | 6.9 | 開始直後からパスミスと守備の緩さが目立ち、ロシエに苦しめられた。ItCの採点は厳しいが、内容を見れば納得せざるを得ない。 |
| コケ | 5.5 | 6.3 | 致命的なバックパスミスがあった一方、ソルロートのゴールに繋がるボール回収も。ミスと修正が同居した内容。 |
| ロドリゴ・メンドーサ | N/A | 6.4 | 18分に負傷交代。グリーズマンからのパスでチップショットを試みたがGKに阻まれた。評価は出せない短い時間。 |
| チアゴ・アルマダ | 2 | 6.0 | 右MFとして先発も前半はほぼ存在感なし。ハーフタイムで交代。 |
| オベド・バルガス | 7 | 7.4 | 地上戦デュエル勝率8/10、ドリブル成功3回。左サイドで攻守に効いた。数的不利の時間帯でもプレスを緩めなかった。 |
| アデモラ・ルックマン | 7.5 | 7.9 | PKで先制点。守備でもデュエルに積極的に参加。後半にはトーロに髪を引っ張られる場面も。 |
| アントワーヌ・グリーズマン | 6.5 | 7.1 | PK獲得に貢献し、広範囲を動き回ったが、フィニッシュのキレは今ひとつ。 |
交代出場
| 選手 | ItC | FotMob | 寸評 |
|---|---|---|---|
| ロビン・ル・ノルマン | 4 | 7.0 | 18分〜(←メンドーサ)。ブディミルのPK場面ではポジショニングに問題。プビルにカバーされる場面が複数あった。 |
| アレクサンダー・ソルロート | 7.5 | 7.1 | 46分〜(←アルマダ)。71分のヘッドで試合を決めた。全大会20ゴール到達。 |
| クレマン・ラングレ | — | — | 82分〜(←ルックマン)。バルハの失点でポジションを外され、AT中のブディミルとの接触も物議を醸した。 |
※ItCレーティングはInto the Calderón、FotMobレーティングはFotMobより引用。