追う側と、追わない側のダービー
バルセロナ70pt、レアル・マドリード66pt、アトレティコ・マドリード57pt。ラ・リーガ第29節を前にした順位表が、この試合のすべてを物語っている。
首位との4pt差に迫られたレアル・マドリーに、ベルナベウでの取りこぼしは許されない。残り10試合、もたつけばバルセロナの背中は遠ざかる一方だ。追い詰められた側がホームに立つ。対するアトレティコは首位と13pt差。リーガ優勝は事実上消えた。だが4月にはCL準々決勝のバルセロナ戦とコパ・デル・レイ決勝が控えている。第1戦4/8カンプ・ノウ、第2戦4/14メトロポリターノ、そしてコパ決勝4/18はレアル・ソシエダとラ・カルトゥハで。頭では、この二冠にすべてを注ぐべきだと分かっている。
ダービーの翌日から代表ウィークに入り、次のクラブの試合は4月4日のバルセロナ戦、リーガ第30節のアウェーだ。中12日の猶予がある。とはいえ、トッテナム第2戦から中3日でダービーを迎えるアトレティコにとって、この試合は疲労管理の問題と切り離せない。シメオネがローテーションを検討しているとの報道もあるが、その動機は4月を見据えた戦略的判断というよりも、CLの連戦で溜まった疲労への対処だろう。
同じダービーでありながら、両者が背負うものがまるで違う。マドリーには勝ち点を落とせない切迫感があり、アトレティコにはCLとコパという別の本命がある。この「動機の非対称性」が、ベルナベウに何をもたらすか。それがこの試合の最大の問いになる。
ベルナベウが勝てないリーガのダービー
構図だけ見ればマドリー有利に映る。今季のベルナベウにおけるリーガ・ホーム成績は12勝2敗。だが「ダービーのベルナベウ」は別の場所になる。
マドリーがリーガのベルナベウ・ダービーで最後に勝ったのは2021年12月12日、ベンゼマとアセンシオのゴールで2-0。以降のリーガ3試合はすべて1-1のドローに終わった(2023年2月、2024年2月、2025年2月)。4年以上、リーガのベルナベウでアトレティコに勝てていない。
今季の直接対決は、性質がまるで異なる2試合だった。9月のメトロポリターノでアトレティコが5-2で大勝している。ル・ノルマンが14分に先制ヘッドを決めたが、エムバペ(25分)とギュレル(36分)が立て続けにゴールを奪い、マドリーが逆転した。もっともソルロートが前半アディショナルタイムにヘディングで同点に追いつくと、試合は一変する。後半開始直後にアルバレスがPKを沈め(51分)、さらにFKでクルトワを破り(63分)、グリーズマンが試合終了間際にとどめを刺した。アトレティコの逆転劇は、シャビ・アロンソ政権の求心力低下を加速させた。ESPNの詳報が伝える通り、アロンソ解任の要因はクラブ会長との関係、ロッカールーム内の軋み、11-12月の不振など複合的であり、最終的なトリガーは1月11日のスーペルコパ決勝バルセロナ戦(2-3敗戦)だった。ただ、メトロポリターノでの5-2が崩壊の始まりだったという認識は広く共有されている。
1月8日のスーペルコパ準決勝ではバルベルデの直接FKとロドリゴのゴールでマドリーが2-1と雪辱した。ただしこれはリーガの公式戦ではなく、ベルナベウの試合でもない。リーガのベルナベウ・ダービーという条件に限れば、アトレティコは負けない流れを維持している。アルベロア体制のマドリーに、このジンクスは断ち切られてしまうのか。
レアル・マドリーの戦力:エムバペのコンディション、クルトワの離脱、薄い最終ライン
リーガ23ゴール。ピチーチ争いをリードするエムバペが、先発復帰する可能性が高い。2月21日のオサスナ戦を最後に先発から遠ざかり、膝の問題で約1か月離脱した。3月17日のマンチェスター・シティ戦で約20分間の途中出場を果たし、今週にはフルトレーニングに合流。AS紙は「先発がほぼ確定的」と報じるが、beIN Sportsはより慎重な見方を示しており、最終判断はアルベロアに委ねられている。先発で出るならば、約1か月ぶりのスタメンがダービーになる。90分を走り切れるか、あるいは60-70分で退くのか。そのプラン次第で試合の設計図が変わる。
GKクルトワはシティ戦で右太もも上部の筋肉損傷を負い、約6週間の離脱。CL準々決勝のバイエルン戦にも間に合わない見通しで、ルニンがゴールマウスに立つ。シティ戦の後半途中から急遽投入されて安定した守備を見せたルニンだが、ダービーの圧力は日常のリーガ戦とは異質だ。
最終ラインの損耗も深刻だ。ミリトンはハムストリング、メンディも同様の負傷で不在。さらにロドリゴが3月3日に右膝ACL・半月板断裂で今季絶望、2026年W杯にも間に合わない。攻撃面でも計算できた選手を一人失った形だ。朗報は、アラバとカレーラスがフルトレーニングに復帰していること。ベリンガムもスカッドに入る見込みだが、1か月以上の離脱からいきなり先発させるリスクは大きく、ベンチからの起用が現実的だ。
アルベロアにとっては、1月12日の就任以来初のリーガ・ダービー。カスティージャの監督からトップチームに昇格し、CL対シティを合計5-1で突破した勢いがある。Football-Españaの記事によれば、シメオネにとってアルベロアは在任中に対峙する10人目のマドリー監督だ。9人目までの初対決の成績は3勝3分3敗。完璧な均衡は、予測の難しさを物語っている。
アトレティコの戦力:好調のムッソ、バリオスなき中盤、アウェーの実績
オブラクが太もも筋肉系の負傷でヘタフェ戦、トッテナム第2戦を連続欠場しており、ダービーにも間に合わない可能性が高い。ムッソが先発に立つ見込みだ。
ムッソのリーガでの実績は目を引く。リーガ4試合連続クリーンシート。Tribunaによれば、21世紀のリーガで初出場から4連続無失点を達成した最初のGKとされる。CLトッテナム第2戦は3失点こそしたが、8セーブを記録してInto the Calderónのレーティングでも最高評価を受けるなど、パフォーマンス自体は称賛されている。リーガでの堅守と、ロンドンでの激闘を経たムッソが、ベルナベウでどんな姿を見せるか。
中盤ではパブロ・バリオスが太もも負傷で4月まで離脱中。ロドリゴ・メンドーサも右足首の捻挫で不在だ。守備面ではプビルが肋骨の違和感でトッテナム第2戦をベンチ外となり、スペイン代表にも合流しなかった。ダービーに向けて完全に除外されたわけではないとの報道もあるが、出場可否は不透明だ。プビルがいるかいないかで守備ブロックの質は一段変わる。
アウェー成績は4勝5分4敗、17pt。ホーム13勝1分1敗との落差は明白だ。もっとも、直近3回のリーガ・ベルナベウ・ダービーはすべて1-1で終わっており、アトレティコは負けていない。この矛盾が、予測を難しくする。
2月に加入したアデモラ・ルックマンは、デビュー直後にリーガとCLで立て続けにゴールに絡んだが、その後は沈黙が続いた。スパーズ第2戦でアシストを記録し存在感を取り戻しつつあるものの、ベルナベウでもう一発、マドリー相手に自らの攻撃力を突きつけたい。アレックス・バエナは今季リーガ14先発で2ゴール2アシスト、出場機会は限られている。ただ、アトレティコが4月の重要な連戦を制するにはチームとしてもう一段階の底上げが必要になる。期待したいのは、バエナがビジャレアル時代の創造性を精度高く再現することだ。
リーガ優勝が遠のいた状況でも、シメオネがダービーを軽く流す姿勢を見せたことは過去にない。試合後には代表ウィークに入るため、戦力を温存する理由は薄い。CLの連戦で溜まった疲労とどう折り合いをつけるか、ベルナベウのピッチに立つ11人の選択がその答えを映すことになる。
注目選手
フリアン・アルバレス
9月の5-2で2ゴールを叩き込み、CLトッテナム戦では2試合で3ゴール2アシスト。大舞台で数字を残せる選手であることを証明し続けている。今季全大会17ゴール、そのうちCLでは8ゴール4アシストを記録し、アトレティコのラウンド16突破を牽引した。ベルナベウでも攻撃の起点になれるか。9月にこの男がマドリーを破壊した記憶は、両チームの選手の頭に残っているはずだ。
キリアン・エムバペ
先発で出るなら、約1か月ぶりのスタメン復帰がダービーという大舞台になる。リーガ23ゴールの破壊力は明白だ。とはいえ、シティ戦での約20分間がフルマッチへの準備として十分だったかは分からない。コンディション次第では途中投入の選択肢も残る。フル出場できれば、リーガ最多得点者の力が試合を一方的に傾ける可能性がある。出られなければ、マドリーの攻撃は選択肢を一つ失う。エムバペのコンディションそのものが、この試合の変数だ。
ジョニー・カルドーソ
今季リーガ713分。数字だけを見れば地味だが、直近8試合中4試合でフル出場しており、稼働の安定感がある。アトレティコはアウェーで中盤の強度が試合を左右する。ボール奪取からトランジションに繋げる場面で、カルドーソの運動量と球際の強さが効いてくる局面は十分に想定できる。バリオス不在の中盤で、目立たないが欠かせない役割を担う可能性がある。
ルニン vs ムッソ:正GK不在のダービー
両チームとも正GKを欠く可能性がある異例のダービーだ。ルニンはクルトワの離脱を受けてシティ戦後半から急遽出場し、無失点で切り抜けた。ムッソはリーガ4試合連続クリーンシートに加え、CLトッテナム第2戦では8セーブを記録しながら合計7-5での勝ち抜けに貢献した。セットプレー、ハイボール処理、至近距離での反応といった一つひとつの判断が、試合の流れを決定づけうる。
マルク・プビル
肋骨の違和感でスペイン代表にも合流せず、トッテナム第2戦もベンチ外だった。ダービーへの出場は完全には除外されていないとの報道があるが、不確定のままだ。プビルがピッチにいるかいないかは、アトレティコの守備の設計に直結する。コンディション次第ではあるが、出場の有無にシメオネのこの試合への意思が透けて見える。
キックオフ情報と観戦ポイント
日時:2026年3月22日(日)21:00 CET / 翌3月23日(月)5:00 JST
会場:エスタディオ・サンティアゴ・ベルナベウ(マドリード)
大会:ラ・リーガ 第29節
まず注目すべきはアトレティコのスタメン構成だ。プビルの出場可否、ルックマンやバエナの起用があるか。CLの疲労を抱えたチームが、ベルナベウにどんな11人を送り出すか。
次に、エムバペのコンディション。先発で出るならば約1か月ぶりのスタメンだ。90分を走り切るのか、60分前後で退くのかで、試合の展開は大きく変わる。途中投入のシナリオも想定しておきたい。
そして、リーガのベルナベウ・ダービー、4年以上続くジンクスの行方。アルベロア体制のマドリーは、この試合に新しい結末を書けるか。アトレティコは「負けない」伝統を維持するか。リーガ優勝が遠のいた側と、勝ち点を落とせない側。動機の非対称性が逆説的な展開を生む可能性は十分にある。
試合後はマッチレポートをお届けします。