マージンの使い方
3点のリードを持って乗り込んだロンドンで、アトレティコ・マドリードは2-3で敗れた。合計7-5でラウンド突破。2試合で12ゴールが飛び交うタイは、安定とは程遠い内容だった。プレビューで書いた「3点差をどう使うか」という問いに、この90分間が返した答えは想定よりも複雑なものだった。
FotMobのデータが示す構図は、アトレティコにとって快適なものではない。xGはスパーズ2.45に対しアトレティコ1.04。枠内シュート11対6。ビッグチャンス3対1。ファイナルサード侵入は52対39でスパーズが上回り、攻撃局面の主導権はほぼ一貫してホームチームにあった。一方でアトレティコは地上デュエル勝率64%対36%、タックル数27対8と個々の局面で体を張り続けた。ボールを持たれても身体的な強度で上回り続けたことが、xGほどの差を実際のスコアに反映させなかった理由だ。
アトレティコは試合を「支配」はしなかったが、「管理」はした。要所で得点を奪い、スパーズが逆転ラインに迫るたびにカウンターで突き放す。47分のフリアン・アルバレス、75分のダビド・ハンツコ。この2点がスパーズの希望を二度にわたって打ち砕いた。押し込まれながらも、決してタイの結末を許さない。シメオネのアトレティコらしい勝ち抜け方だったと言ってよい。
同時に、この試合が露呈した守備の脆さは、準々決勝に向けて無視できない。ル・ノルマンのマーキングの甘さ、モリーナの不安定さ、ジュリアーノ・シメオネのボールロストから生まれた失点。3点差という保険がなければ、違う結末もあり得た試合だった。
耐える前半──ムッソの安定感
試合の入りから主導権を握ったのはスパーズだった。トゥドル監督は前節リヴァプール戦に続いて3バック(FotMob表記:3-4-2-1)を採用し、シモンズとテルを2シャドーに配置。ポロとスペンスの両ウイングバックが幅を取り、グレイとサルのダブルピボットがトランジションを支える。
6分、ジュリアーノ・シメオネの低いクロスからルックマンがネットを揺らすが、オフサイドの判定で取り消し。その後は一転してスパーズの時間が続く。
テルが厄介だった。左サイドからカットインしてはシュートを放ち、ワイドに張ってはクロスを送る。序盤から繰り返しゴールを脅かし、タイトアングルからの一撃をムッソが弾き出す場面もあった(Guardianは25分、ESPNはやや早い時間帯で記述。以下、分表記はESPNタイムライン準拠)。
27分、ルッジェーリにイエローカード。ポロへの対応で後手を踏む場面が続いていた中での警告だった。
30分、ついにスパーズが先制する。ポロのスローインを起点に、テルが右サイドのインサイドからふわりと上げたクロスに、コロ・ムアニがフリーでヘディング。ボールはゴール左隅に吸い込まれた。ル・ノルマンはコロ・ムアニの動き出しに完全に後手を踏んだ。相手の唯一のセンターフォワードにル・ノルマンの右肩裏へ流れられ、フリーヘッドを許した以上、責任は明白だ。ItC評価3。数字が厳しさを物語る。
35分、スパーズに決定的な追加点のチャンスが巡ってくる。グレイが中盤で仕掛けてボールを運び、シモンズがコロ・ムアニからのパスをテルに繋ぐ。テルは6ヤードボックス左角付近でムッソと1対1になるが、シュートはムッソの正面に飛んだ。バックポストにはグレイがフリーで待っており、横パスを選んでいれば2-0は確実だった。ムッソのこの日の存在感は、このセーブに象徴されている。
前半終了間際、アトレティコも反撃の兆しを見せる。アルバレスの30ヤードからのシュートにディフレクションがかかり、ボールはクロスバーすれすれを越えていった。直後にはジュリアーノ・シメオネの遠目からのシュートにディフレクションがかかり、ビカリオが素早く反応してセーブ。この2本がなければ、前半はスパーズの独壇場で終わっていた。
47分と52分──5分間の攻防が決めたもの
後半開始からわずか2分。この試合のターニングポイントが訪れる。
スパーズが敵陣でボールを持ち攻撃を組み立てた直後、アルバレスがシモンズに接触してボールを奪う。スパーズはファウルを主張したが、ジーベルト主審は笛を吹かなかった。Guardianは「トゥドルはアルバレスのシモンズへのファウルを求めたが、そこにはなかった」と記している。そこからアトレティコのカウンターが始まる。ルックマンが持ち上がり、最終的にアルバレスへ横パス。受けたアルバレスは一歩のステップでシュートコースを作り、右足を振り抜いた。ボールはゴール左上に突き刺さる。ビカリオにはノーチャンスだった。
合計6-3。スパーズが逆転するには、ここからさらに4点が必要になった。
だが、この試合のスパーズは沈まなかった。52分、グレイが中盤でボールを奪い返し、前を向いてドライブ。シモンズにパスが渡ると、25ヤードの位置から右足で弧を描くシュートがファーサイドに吸い込まれた。FotMob評価9.5。グレイの推進力がなければ生まれなかったゴールだ。
47分と52分。5分間に凝縮された2つのゴールは、この試合の両チームの姿をそのまま映し出している。アトレティコはカウンター一閃で相手の希望を断ち切る。スパーズは倒れてもすぐに立ち上がり、個人の閃きでゴールをこじ開ける。
シメオネは試合前の記者会見で「先にスコアして相手をより苦しい状況に追い込むのが最善だ」と語っていた(Into the Calderón)。しかし実際には、アトレティコは先制を許した。計画通りにはいかなかった。だが先制された後の立て直し──47分のカウンターで即座に追いつき、流れを引き戻したこと──にこそ、このチームの本質がある。計画が崩れた後の対応力。それがシメオネのアトレティコだ。
75分の決着──そして残された課題
52分から75分まで、スパーズはこの試合で最も危険な時間帯を作り出す。60分、シモンズのスルーパスに走り込んだポロが右足のアウトサイドで放ったシュートを、ムッソが伸ばした右手一本でコーナーに弾き出した。直後のCKではドラグシンのヘッドもムッソがキャッチ。あのポロのシュートが入っていれば合計6-5。スパーズに残り30分で逆転の現実味が生まれていた。何度でも見返したくなるセーブだ。
しかしアトレティコには、押し込まれた時間帯にこそ牙を剥くアルバレスがいた。ファン・デ・フェンとスペンスの間を鋭いボールタッチで抜け出し、タイトアングルからシュート。ビカリオがかろうじてセーブした。さらにアルバレスのFKをビカリオが弾き、そのCKから試合を決めるゴールが生まれる。
75分、アルバレスのCKに、サルの前に入り込んだハンツコがニアポストでグランシングヘッド。合計7-4。事実上の決着だった。
ルックマンは試合後、こう語った。
「スパーズが先に得点し、崩壊してもおかしくなかった。しかし我々には冷静さを保ち、試合に留まり、チャンスを作るメンタリティがあった」(Reuters)
87分、ヒメネスがジュリアーノ・シメオネに代わって投入される。直後の90分、シモンズをペナルティエリア内で倒しPKを献上。ボールに一切触れていないのに、なおボールを指さしていたのが印象的だったとItCは皮肉を込めている。シモンズがこれを沈めて3-2。合計7-5。結果に影響はなかったが、投入直後のPK献上はヒメネスにとって痛恨だった。ItC評価3。
この試合で最も議論されるべきは右サイドの脆さだろう。プビルが試合前に肋骨の不快感で離脱し、急遽モリーナが先発に入った。ItC評価4のモリーナは、守備面で繰り返し後手に回り、64分にコケと交代した。モリーナのグラウンダーでの配球の不安定さは以前から指摘されてきた問題であり、この試合で突然顕在化したわけではない。だがプビル不在時のバックアップとしての信頼性に疑問符がついたことは事実だ。
ジュリアーノ・シメオネについても触れなければならない。ItCが「2失点目につながったボールロストはかなり嘆かわしい(pretty lamentable)」と書いた52分のシーンは、ジュリアーノのパス選択がシモンズのゴールに直結している。若さゆえの判断リスクと言えばそれまでだが、あの場面で失点につながり得るプレーを選んだことは、経験の中で本人が理解すべき教訓だ。準々決勝でバルセロナ相手に同じミスは許されない。
ル・ノルマンのパフォーマンスも課題が残った。コロ・ムアニにフリーヘッドを許した30分の場面に加え、テルにも抜かれてムッソに救われている。FotMob 7.1に対してItC 3。評価の大きな乖離は、テルとの1対1をムッソが止めた場面の責任配分をどう見るかの差だろう。ルッジェーリもItC 3、FotMob 6.3と低評価。ファーストレグと同じくポロに対してオーバーコミットし、今回もGKに救われた。ハンツコ(ItC 7、FotMob 7.2)だけが最終ラインで合格点を得た。
フリアン・アルバレス──歴史に名を刻む100試合目
アトレティコ・マドリードでの通算100試合目。シメオネが試合前会見で「彼を信頼している。もっと多くの試合をここで重ねてほしい」と語ったその節目に、フリアン・アルバレスはふさわしい仕事をした。
1ゴール1アシスト。FotMob 8.8。ItC 9。しかし数字以上に印象に残るのは、この選手がピッチ上で見せる多面性だ。47分のゴールでは、ルックマンのパスを受けてからシュートまでの動作が一切の無駄なく完結した。一歩のステップでシュートコースを作り、左上隅に叩き込む。スペースがほとんどない状況から、技術とポジショニングだけでゴールを生み出す。
75分のCKからハンツコのヘッドをアシストした場面では、キッカーとしての精度を見せた。だがアルバレスの真価は、得点やアシストに現れない場面にある。後半、ファン・デ・フェンとスペンスを相手に鋭いタッチで抜け出した場面。自らのプレスでボールを奪い返してシュートまで持ち込んだ場面──ゴールにはならなかったが、決定機を自ら演出した。左サイドに流れてのミドルシュート、セットプレーでのキック精度、前線からの守備。やれることの幅が尋常ではない。
CLのノックアウトステージにおいて、両レグでゴールとアシストの両方を記録した史上4人目の選手となった(FotMob)。1997-98準決勝のデル・ピエロ(ユヴェントス対モナコ)、2011-12準々決勝のカカ(レアル・マドリード対APOEL)、2019-20ラウンド16のレヴァンドフスキ(バイエルン対チェルシー)に続く記録だ。ファーストレグの2ゴール1アシスト、セカンドレグの1ゴール1アシスト。合計3ゴール2アシスト。今季CLは8ゴール4アシストに到達した。
シメオネは試合後、アルバレスについてこう語った。
「試合は素晴らしかった。ビジョン、ハードワーク、試合のあらゆるディテールを読む力、見事なゴール、そして攻撃的なスタイルが、我々を常に試合の中に留まらせ、あらゆる状況がゴールにつながり得る状態を作ってくれた」(Into the Calderón)
100試合目を準々決勝進出の日に飾る。ラ・アラーニャ(蜘蛛)の異名にふさわしい、糸を張り巡らせるような存在感だった。
サン・フアン──8本のセーブが語るもの
ヤン・オブラク不在。その事実をどう受け止めるかは、試合前の時点でファンの間でも意見が分かれていた。ラ・リーガでのデビュー4試合連続クリーンシートを根拠に信頼する声と、CLノックアウトステージという舞台への懸念。フアン・ムッソは、8本のセーブでその議論に答えを出した。FotMob 7.4、ItC 8。ItCが書いた「サン・ヤン(聖ヤン=オブラク)を楽しんできた10年間の次は、サン・フアンを楽しむ番だ」という言葉は、大げさではなかった。
テルの至近距離シュートを体で止めた序盤の場面。テルとの1対1をブロックした35分。そして何よりも、60分のポロのアウトサイドキックを右手一本で弾いた場面。あのシュートが入っていれば合計6-5。ムッソのセーブは単にゴールを防いだだけではない。タイのストーリーそのものを書き換えた。
今季のCL出場はリーグフェーズのインテル戦に続いて2試合目。経験値は決して豊富とは言えないが、ビッグマッチでの胆力は証明された。準々決勝のバルセロナ戦でオブラクが間に合わない場合、ムッソという選択肢があることは、チームにとって大きな安心材料だ。
カルドーソの静かな存在感
シメオネが試合後の記者会見で真っ先に名前を挙げた選手は、アルバレスでもハンツコでもなかった。ジョニー・カルドーソだ。
「カルドーソのことをとても嬉しく思う。彼は一貫して取り組み続け、今日はトップクラスの試合を見せてくれた」(Into the Calderón)
FotMob 7.3、ItC 7。タックルとデュエルで中盤の基盤を形成し、アンカーの位置でボールを刈り取り続けた。チーム全体の地上デュエル勝率64%を支えたのは、カルドーソの貢献が大きい。華やかさはないが、アルバレスが自由に攻撃参加できた土台を作ったのはこの選手だ。ボール保持時のテンポにはまだ改善の余地があるものの、中盤の強度という点で準々決勝に向けた信頼を勝ち取った。
ベスト8、8度目の景色
シメオネ体制下、CLベスト8は今回で8度目。レアル・マドリード、バイエルン、バルセロナを除けば、欧州でも屈指の安定感を示す数字だ。
シメオネは試合後、その事実について問われ、こう答えた。
「時には語る必要はない。事実と数字が自ら語ってくれる。我々は最高のエネルギー、最高のクオリティを注ぎ続け、自らを再発明し続けなければならない」(Into the Calderón)
試合全体を振り返る言葉も興味深い。
「試合は良いスタートではなかった。3点のリードがいつも味方してくれるわけではない。彼らのゴールの後、我々は反応し、攻撃を仕掛け、勝てることを示し、追いつき、相手がまた取り、我々がまた追いつき、勝てたはずの試合で、最後に我々が値するドローを奪うはずのPKが来た」(Into the Calderón)
準々決勝の相手はバルセロナ。コパ・デル・レイ準決勝では合計4-3で辛勝した相手だ。シメオネはバルセロナについて「ヨーロッパ最高の攻撃力を持つチームだろう」と認めたうえで、かつてのアシスタントコーチ、モノ・ブルゴスの言葉を引き合いに出した。「プレシーズンで2部のチームと試合するな、と彼はよく言っていた。マドリードやバルサと戦うことが我々を強くする」。シメオネらしい闘争心の表現だ。
この試合が残した課題は明確だ。xG 2.45を許した守備の構造、ル・ノルマンとルッジェーリの不安定さ、プビル不在時のバックアップ問題。オブラクのコンディションも不透明なまま、3月22日のマドリードダービーを経て、4月のバルセロナ戦に向かう。
だが同時に、この試合はアトレティコの強靭さも証明した。押し込まれてもカウンターで刺し、先制されても動じず、必要な場面で必要なゴールを奪う。コパ準決勝バルセロナ戦の教訓──リードを持つ試合で受けに回る危険性──を、完全にとは言えないが、一定程度消化した内容だった。
アルバレスが見せた個の力。ムッソが証明した信頼性。カルドーソが支えた中盤の基盤。それらをまとめ上げるシメオネの試合運び。バルセロナ相手に同じことができるかは分からない。だが少なくとも、準々決勝に向かうアトレティコには、武器がある。
選手レーティング
| 選手 | ItC | FotMob | 寸評 |
|---|---|---|---|
| フアン・ムッソ | 8 | 7.4 | 8セーブでチームを救った。60分のポロのシュートを右手一本で弾いたセーブは圧巻。オブラク不在を感じさせない安定感 |
| ナウエル・モリーナ | 4 | 6.7 | プビルの離脱で急遽先発。守備で繰り返し後手を踏み、64分に交代。右サイドの不安を露呈 |
| ロビン・ル・ノルマン | 3 | 7.1 | 30分にコロ・ムアニにフリーヘッドを許した責任は重い。テルにも抜かれ、ムッソに救われる場面が複数 |
| ダビド・ハンツコ | 7 | 7.2 | 75分のグランシングヘッドで事実上の決着点。空中戦で圧倒し、最終ラインで唯一の合格点。終了間際のブロックも貴重 |
| マッテオ・ルッジェーリ | 3 | 6.3 | 27分にイエロー。ポロへのオーバーコミットはファーストレグと同じ問題。攻撃面の貢献も限定的 |
| ジュリアーノ・シメオネ | 5 | 7.0 | ファウル獲得で守備の圧力を和らげたが、52分のボールロストがシモンズのゴールに直結。判断力の成長が求められる |
| マルコス・ジョレンテ | 8 | 6.4 | 前半は中盤を運動量で制圧。クロスの精度も高く、ファーストレグに続く好パフォーマンス |
| ジョニー・カルドーソ | 7 | 7.3 | シメオネが試合後に真っ先に名前を挙げた。タックルとデュエルで中盤の基盤を形成 |
| アデモラ・ルックマン | 6 | 7.7 | 47分のアルバレスへのアシストは見事なカウンター。55分にドラグシンとの接触でイエロー、64分に交代 |
| アントワーヌ・グリーズマン | 8 | 6.6 | ジョレンテとアルバレスを繋ぐ司令塔役。60分以降は運動量が低下し、83分に交代 |
| フリアン・アルバレス | 9 | 8.8 | 1G1A。CLノックアウト両レグでG+Aは史上4人目。100試合目にふさわしい多面的な支配 |
| 交代選手 | ItC | FotMob | 寸評 |
|---|---|---|---|
| コケ | 7 | 7.3 | 64分〜(←モリーナ)。投入直後から試合のテンポを落とし、チームに落ち着きをもたらした |
| アレクサンダー・ソルロート | 5 | 5.7 | 64分〜(←ルックマン)。前線でターゲットとなりCBを引きつけたが、決定的な仕事には至らず。90+2分にイエロー |
| ニコ・ゴンサレス | - | - | 83分〜(←アルバレス)。出場時間が短く評価対象外 |
| アレックス・バエナ | - | - | 83分〜(←グリーズマン)。ATにカウンターを仕掛けたが、スペンスに追いつかれた |
| ホセ・マリア・ヒメネス | 3 | - | 87分〜(←ジュリアーノ)。投入直後にシモンズをエリア内で倒しPK献上。痛恨の判断 |
※ ItC = Into the Calderón、FotMob = FotMobレーティング。レーティングは各メディア独自の基準による。交代時間はFotMob準拠。