xG 0.45、2得点──期待値の外側にあった勝利
アトレティコのシュートは5本。xG 0.45。ボール支配率42%。数字だけを並べれば、カンプ・ノウではバルセロナが圧倒していた。バルセロナのシュート18本、xG 1.21、枠内7本(いずれもFotMob)。だが試合を終えてみれば、スコアボードに刻まれていたのはアトレティコ・マドリードの2-0だった。期待値を大きく下回るチャンスから2得点を奪い、相手の得点をゼロに封じた。アトレティコは、数字では測れない勝利を手にしている。
プレビューで問うたのは、「壊れず、失わず、メトロポリターノへ何を持ち帰れるか」だった。その答えが、ディエゴ・シメオネ就任以来初のカンプ・ノウ勝利という形で出た。クラブとしても2006年2月以来、カンプ・ノウでの25試合未勝利に終止符を打っている。シメオネは試合後、このスタジアムで勝ったことがなかった事実の重みに触れた。そのうえで、バルセロナをパリ・サンジェルマンやバイエルン・ミュンヘンと並ぶヨーロッパ最高峰の相手と位置づけ、その相手に対して決定機を逃さなかったチームの精度を強調した。
バルセロナがホームで無得点に終わるのは、2024年12月のレガネス戦以来、全大会を通じて40試合ぶりのことだった。アトレティコにとっては今季CL初のクリーンシートでもある。
前半──均衡と終了間際の決壊
試合は立ち上がりから慌ただしく動き出した。バルセロナの4-2-3-1に対し、アトレティコは4-4-2で構えた。序盤からバルセロナが主導権を握り、18分にはラミン・ヤマルのパスからラッシュフォードがネットを揺らしたが、起点のヤマルにオフサイドがあり取り消されている。
もっとも、バルセロナだけが攻めていたわけではない。フリアン・アルバレスが深い位置からドリブルで持ち上がりシュートを打つ場面があり、アデモラ・ルックマンのシュートはブロックされて枠を外れた。ジュリアーノ・シメオネもファーポストを越えるシュートを放っている。開始15分からゴール前の往復が続き、両チームとも決定機を逃しながらスコアは動かないまま時間が過ぎた。
バルセロナの圧力が増し、コーナーキックの連続からアトレティコが自陣に押し込まれる時間帯。その流れを一変させたのが前半終盤だった。アルバレスの縦パスに反応したジュリアーノが抜け出しかけたところを、パウ・クバルシが背後から足をかけた。主審イシュトヴァーン・コヴァチュはまずイエローカードを提示したが、VARの介入で映像を確認し、判定をレッドカードに変更した。最終守備者であるクバルシが得点機会を阻止したという判断が下された。
そして直後のFK。アルバレスが壁の上を越えるボールを右上隅へ叩き込んだ。ジョアン・ガルシアが必死に飛んだが、届く軌道ではなかった。アルバレスは試合後、「昨日の練習で5、6本FKを蹴ったけど、たしか1本も入らなかった。でも大事な1本は今日だった」とMovistarで振り返っている。今季CL9得点目。2013-14シーズンにジエゴ・コスタが記録した8得点を超え、アトレティコの1シーズンCL最多得点記録を塗り替えた。
ほどなくして数的不利と失点を同時に突きつけられたバルセロナにとって、カンプ・ノウに沈黙が広がった前半終了の笛は、この試合の転換点だった。
後半──念願のクリーンシート
ハンジ・フリックは後半開始からペドリとロベルト・レヴァンドフスキを下げ、ガビとフェルミン・ロペスを投入した。10人になったバルセロナは萎縮するどころか、後半に入っても攻撃の手を緩めなかった。
50分、ヤマルがアウトサイドで通したスルーパスにラッシュフォードが抜け出し、角度のないところからシュートを放つがサイドネット。52分にはラッシュフォードのFKがゴールを襲い、フアン・ムッソが指先で触れてクロスバーに弾き出した。バルセロナの攻勢は続き、クロスバーやポストに嫌われたシュートはこの試合で2本を数えた。
アトレティコは自陣で耐える時間が続いたが、60分にシメオネが動く。ルックマンとコケを下げ、アレクサンダー・ソルロートとアレックス・バエナを投入した。Into the Calderónはルックマンに3点を付け、試合への関与が限られていたと厳しく評価した。FotMobとの乖離はあるが、少なくともシメオネが流れを変える必要を感じていたことは確かだった。
70分、グリーズマンが起点となってボールは左サイドのマッテオ・ルッジェーリへ渡る。低いクロスに、投入から10分のソルロートが左足で合わせた。0-2。カンプ・ノウを再び沈黙させる一撃だった。今季限りでMLSへ移ることが決まっているグリーズマンにとっても、その存在感を示す場面になった。
ムッソはこの試合で7セーブを記録した。FotMobのレーティングは8.5で、両チーム通じて最高のスコアだった。コパ・デル・レイ準決勝第2戦でバルセロナの猛攻をしのいだ記憶は新しいが、この日のムッソもまた、アトレティコの勝利を最後列から支え切った。今季CL初のクリーンシート。その価値は、数字以上に大きい。
カード管理における勝利
この試合の意味は、2得点だけでは語れない。プレビューで「第1戦の最大のテーマ」として挙げたのは、重要な選手を失わない形で耐え切ることだった。先発ではマルコス・ジョレンテ、ジュリアーノ・シメオネ、ルッジェーリ、ロビン・ル・ノルマンの4人が累積警告リーチの状態でこの試合に臨んでいた。途中出場のティアゴ・アルマダも同様だった。1枚のイエローが第2戦の出場停止に直結する状況で、90分を乗り越えなければならなかった。
ジョレンテの仕事ぶりは特筆に値する。ItCのレーティングはチーム最高タイの8、FotMobでも7.3。31分に警告を受けたコケは60分で交代となった。第2戦も見据えた判断だった可能性はあるが、少なくともこの試合では黄紙を抱えたままプレーを続けるリスクを避けた形だった。コケが下がった後、ジョレンテは7年前に契約した当初のポジションである守備的MFに入り、そこから終盤まで中盤を締め上げた。ItCも「守備的MFが似合う」と評している。カードを受けないためにプレーの質を落としたのではない。足でボールに追いつき、身体を当てる前にプレーできていた。クリーンに、かつ強度を保ったまま90分を完遂したことが、第2戦の布陣に与える安心感は大きい。
ジュリアーノも無傷で帰還した。退場を誘発した前半終盤の突破を含め、中央を突くランニングで何度もバルセロナのハイラインの裏を脅かした。ItCの記事は、ソルロートのゴール前にも同様の中央突破が見られたことを指摘し、「シメオネがトレーニングで仕込んだ対バルセロナ策ではないか」と推測している。ルッジェーリもまた、イエローを受けることなく、後述するヤマル対応の仕事を完遂して第2戦に臨める状態を保った。
一方で、損失もあった。ダビド・ハンツコは開始31分に、ヘディング競り合いの着地で左足首を痛めて交代を余儀なくされた。試合後には松葉杖を使う姿が報じられており、第2戦の出場可否は現時点で未確定だ。代わって入ったプビルは守備の安定をもたらし、ItC 7という評価を受けたが、45+1分にイエローカードを受けた。この累積により、プビルは第2戦出場停止が確定している。
筆者としては、プビルのイエローには疑問が残る。ファウルの成立自体が怪しいプレーに対して、カードが出るほどの強度があったかは判然としない。この1枚が第2戦の不在を確定させたことを考えると、判定の重みに見合う場面だったのか。加えてフリックは、プビルがゴールキックの際にムッソからのボールをペナルティエリア内で手で拾い上げた事案について、VARが介入しなかったことに「信じられない」と強い不満を示している。判定をめぐる余韻が、この試合に残された数少ない不協和音だった。
ヤマルに決定的な仕事をさせなかった守備の設計図
ヤマルはこの試合でも存在感を示した。FotMob 8.1はバルセロナ最高で、何度もドリブルで局面打開を試みている。50分のアウトサイドパスでラッシュフォードを送り出した場面など、質の高いプレーは確かにあった。
ただし、得点もアシストもゼロだった。Guardianの実況は、終盤のヤマルについて「まさにアトレティコが望んだとおりのプレーをした。何度か行き止まりに突っ込み、最後の守備者に止められた」と記している。終盤のヤマルは繰り返し打開を試みたが、最終局面ではアトレティコが身体を張って止め切った。個の才能で局面を打開しながら、最終的にゴールという結果に結びつかない。アトレティコの守備設計が狙ったのは、まさにその構図だった。
その設計の軸にいたのがルッジェーリだ。FotMob 8.0、ItC 7。4月4日のリーガでも後半頭から投入されてヤマルの対応にあたった経験を持つが、この日はフル出場でその仕事を担い、2点目のアシストまで記録した。ヤマルが外に開けばついて行き、中に切り込めば身体を寄せてシュートコースを消す。アトレティコのファウル17回という数字が示すとおり、この試合はクリーンに守り切ったとは言えない。それでも、決定的な場面でヤマルを自由にさせなかったという事実は残る。現状、ヤマル対策のファーストチョイスとしてルッジェーリが最有力に見える。少なくともこの第1戦では、アトレティコが最も信頼して託した対応役だったと言えるだろう。第2戦でも、この組み合わせが最重要の守備ラインとなるだろう。
メトロポリターノへ持ち帰ったもの
2得点と無失点。クバルシは退場処分で第2戦を欠く。プビルの累積による出場停止はアトレティコにとっても痛手だ。ハンツコの状態は未確定のままだ。それでも、ジョレンテ、ジュリアーノ、ルッジェーリの3人がカードを受けず第2戦に臨める事実が、この日の最も大きな収穫だったかもしれない。
アトレティコがもう1点取れていれば、事実上勝負は決まっていた。後半のバルセロナは10人ながらポゼッションでもシュート数でもアトレティコを上回り続けた。ラッシュフォードは試合全体で7本のシュートを放っている。仮にあの猛攻の中で1点でも返されていれば、メトロポリターノに持ち帰る心理的優位はまるで違ったはずだ。3点目を取りきれなかったことと、それでも無失点で終えたこと。第2戦へ向けた課題と収穫が、その両面に凝縮されている。
ハンツコの状態が未確定で、プビルも累積で使えない。守備ラインの再構成は避けられず、誰をどこに配置するかが第2戦最初の論点になる。攻撃面では、60分で交代したルックマンの起用法が改めて問われることになる。ソルロートは投入10分で結果を出した。先発かベンチかを含め、前線の組み合わせは第2戦の大きな論点になるだろう。
グリーズマンは試合後、アルバレスの好調ぶりに触れ、決勝まで導いてほしいという期待を口にした。チームへの信頼がにじむコメントだった。
第2戦は4月14日(火)、メトロポリターノ。勝ち上がった先にはスポルティングCPとアーセナルの勝者が待つ。プレビューで掲げた問い、壊れず、失わず、何を持ち帰るか。アトレティコはこの夜、最上に近い回答を出した。あとは、持ち帰ったものを守り切る90分が残っている。
選手レーティング
先発
| 選手 | ItC | FotMob | 寸評 |
|---|---|---|---|
| フアン・ムッソ | 6 | 8.5 | 7セーブで今季CL初のクリーンシート。ラッシュフォードのFKをバーに弾いた場面が白眉。ItCの評価はやや辛いが、FotMobの両チーム最高点が仕事の質を端的に示している。 |
| ナウエル・モリーナ | 7 | 7.4 | 前半にラッシュフォードをフリーにしかけた場面もあったが、オフサイドに救われた。時間とともに安定感を取り戻し、ItCもプビルではなくモリーナの先発を「正当化した」と評価。 |
| ロビン・ル・ノルマン | 7 | 7.0 | ハンツコの負傷後、左CBにスライド。ItCは「今季見てきた中で数少ない強いパフォーマンス」と評し、あらゆる選手とボールを通さない姿勢を称えた。 |
| ダビド・ハンツコ | n/a | 6.4 | 31分に左足首を痛めて交代。着地時の負傷で、試合後に松葉杖姿が報じられた。第2戦の出場可否は未確定。 |
| マッテオ・ルッジェーリ | 7 | 8.0 | ヤマル対応の軸を担いつつ、70分にはソルロートへの決定的なクロスでアシストを記録。攻守両面でチーム最高クラスの貢献。 |
| ジュリアーノ・シメオネ | 7 | 7.0 | 中央突破のランニングでクバルシの退場を誘発。カードを受けず第2戦に出場可能。ItCは繰り返されたハイライン裏への走りを「トレーニングで仕込んだ対策」と推測。 |
| マルコス・ジョレンテ | 8 | 7.3 | 累積リーチながら90分間イエローなし。コケ交代後の守備的MFとしての働きをItCは「このポジションが似合う」と評価。クリーンかつ高強度のプレーを最後まで貫いた。 |
| コケ | 5 | 6.4 | 31分のイエローで身動きが取りにくくなり、60分で交代。黄紙を抱えたままのリスクを避ける判断でもあった。キャプテンとしての統率は見せたが、プレーの制限は否めない。 |
| アデモラ・ルックマン | 3 | 7.2 | Into the Calderónは試合への関与が限られていたとして厳しく評価した。60分で交代。FotMobとの乖離が大きい。 |
| アントワーヌ・グリーズマン | 7 | 7.1 | 少なくともアトレティコの選手としては最後のカンプ・ノウ出場。2点目の起点となった場面が象徴的。ItCは「MLS移籍が早すぎると感じさせた」と記した。 |
| フリアン・アルバレス | 8 | 8.3 | 直接FKで先制点。今季CL9得点目はクラブ記録更新。UEFAのプレイヤー・オブ・ザ・マッチ。後半は守備タスクも献身的にこなした。 |
交代出場
| 選手 | ItC | FotMob | 寸評 |
|---|---|---|---|
| マルク・プビル | 7 | 6.2 | 31分〜(←ハンツコ)。守備を安定させたが、45+1分のイエローで第2戦出場停止が確定。判定の妥当性には議論の余地が残る。 |
| アレックス・バエナ | 7 | 6.2 | 60分〜(←コケ)。中盤でのパス精度は高かったが、63分にイエロー。ItCは「深い位置の役割が似合っていた」と評価。 |
| アレクサンダー・ソルロート | 7 | 7.1 | 60分〜(←ルックマン)。投入わずか10分で試合を決める2点目。ルッジェーリとの左サイドの連携は、今季何度も見てきた形の再現だった。 |
| ニコ・ゴンサレス | 5 | 6.0 | 80分〜(←グリーズマン)。ヤマルとは反対サイドでの出場。退場にならなかったこと自体が週末のリーガからの改善。 |
| ティアゴ・アルマダ | 5 | 6.0 | 80分〜(←ジュリアーノ)。限られた時間の中でボールに触れる場面はあったが、大きなインパクトは残せなかった。 |
※ItCレーティングはInto the Calderón、FotMobレーティングはFotMob/Opta。ハンツコは31分の負傷交代のためItCは採点対象外(n/a)。